僕達は、鉄のレールの上を走る――鉄の塊が停る場所で出逢った。

 沢山の気だるそうな魂が、毎朝鉄の塊に乗っていく。

 僕がそれに乗ってたどり着く場所は、僕の魂の価値をわかろうともしない社会の(おり)だ。
 君は、まだ大人の支配に包まれた、それでも美しい学び舎へ行くのだろう。

 その長いままの、紺色のプリーツスカート。
 美しい緑の黒髪は、君の気高さを表しているようだ。

 いつも一人で、文庫本を読む君。

 でもふいに、僕を見つめる。
 遠くにいる僕を、君は何度も見つめてくる。

 紅いスカーフが揺れる君の愛は、僕にとっては毒だ。
 君の想いには応えられない。

 僕の首には、社会に忠誠するという首輪が絞められているのだ。
 わかってくれるだろうか。
 
 君の想いに応えれば、僕は首を縄で絞められてしまう。

 君に伝わらないだろうかと、応えられない無理なんだと、眉をしかめてみた事もある。

 それでも君は、僕を見つめてくる。
 その視線だけでも僕は……苦しい。

 あぁ、何が罪なのかと問う。

 この愛に応えない事が、罪なのではないだろうか。
 淡い桃色の花が舞う季節の出逢いから、今の紅葉舞う季節まで送り続けられる愛。

 僕達の愛に気付かず、無表情な魂達は今日も鉄の塊を乗り降りする。

 あぁ、そうなのだ。
 もう君からの愛は、僕達の愛になってしまっていた――。

 君が望むなら、僕は罪を受けよう。
 この鉄の塊に乗って、逃げようか。

 レールなど愛には必要ない。

 どこまでも、どこまでも……逃げよう……魂だけになったとしても……。

 僕から君に伝えよう。
 この運命の赤い糸をたぐるように、ずっと待たせてごめんよ。

 一歩、一歩進む。
 君が驚いた顔をする。
 そうだ、王子様が迎えに来たのだからね。

「いつも僕を見つめていたね、ありがとう愛しているよ」

 僕は目の前で君に微笑み、手を掴んだ。

 しかし微笑むはずだった君は、顔が醜く歪む。
 そしてこう叫んだ。

「ホームの時計見てただけだけど!? おっさん気持ちワルっ!!」