《8:00 Sランク寮前》一也side


今日は朝から小雨が静かに降っている。 天気予知情報によると夜になれば激しくなるそうだ。

彼女を見張らせているEランク隊員に病み上がりの彼女がどこへ向かったかだけを聞いてSランク寮へ戻る途中、背後に人の気配を感じて足を止めた。

「ちょっとあんた!」

―――何度頼まれても見張りは外さないと言っているはずなのに、また来たか。

「しつこい女だな」

どうされました?

「はあっ!?しつこいって何よ!」

おっと、口に出すべきことと考えてることが逆に。

「今日こそ見張りの催眠を解いてくれない?毎日見張られるの気持ち悪いんだけど」
「それはできないと言ったはずですが」

そう答えるとあからさまに舌打ちされた。数度しか顔を合わせていない年上の男に向かって、なんて態度のデカい女だろう。

紺野楓――紺野司令官の娘であるようだが、彼のような冷静さや品性は無いように見える。

「じゃあ、これだけ聞かせて。……あいつは元気なの?」
「ええ。昨夜熱も下がりましたし、今はピンピンしていますよ」



今朝も元気に―――

「おい、朝食を食べながら本を読むんじゃない。……というか何の本を読んでいるんだお前は」
「え?これ?今日発売したやつなんだけどさっき届いてさ。我慢できなくてつい…」
「朝っぱらから何て物を開いてるんだ……」
「え?泰久エロ本見たこと無いの?」
「……」
「え?マジでないの!?一度くらいはあるでしょ!?ないの?男として大丈夫なの?」
「いいからさっさと仕舞え!」
「何だよ、泰久だって好きなくせに!」
「俺がいつそんなものを好きだと言った!」
「言ってないけどそういうもんでしょ!?健全な男性ならちょっとくらいは――あ、そうだ!泰久の端末に侵入して検索履歴見てみよう!絶対エロいの見てるよ!」
「おい、何を勝手に――」
「うっわ、何これ!?“最適な睡眠時間”、“イタリィ 天気”、“熱 看病”、“おいしいお粥の作り方”……マジでやましさの欠片も無いじゃん!?ちょっとくらいはエロいの見ようよ!?泰久ほんとに大丈夫!?」
「いいからさっさと飯を食え!」

―――とか何とか、泰久様とやり取りしていた。






彼女が食卓にいると朝が賑やかになる。泰久様と2人の時は大した会話をしないのだが、彼女がいるとそれだけで話の種が出き、僕も自然といつもより声を出している。それは昔からのことだった。

僕は目の前の女に視線を落とし、突き放すように言った。

「そろそろいいですか?これから少し行くところがあるんです」
「……まぁ、あいつの状態聞けただけよかったわ。今日のところは帰ってあげる」

できれば一生僕の前にしつこく現れないでほしいのだが、と内心思いながらも去っていく紺野楓から視線を外す。

何かあれば対処できるように準備しておかなければならない。……うちの姫様が、今度は敵国イタリィへ行きたいそうだからな。