《20:00 Cランク寮》


小雪の秘密を暴いたあの日から、私と小雪は体を重ねなくなった。と言っても夜に来るのは習慣化していて、私は今日も小雪の部屋にいる。

今日の話題は、もちろんこのこと。

「雪乃に手ぇ出したんだって?」
「うん」
「……思ったより平気そうでびっくりした」

自責の念に駆られてもっと苦しそうにしてるかと思ったのに、小雪はけろっと私の正面で晩御飯を食べてる。

「もうこの際、開き直っちゃおうと思って。俺はもう、哀と雪乃さえいれば何もいらない」
「お、おお……そっか」
「哀はこんな俺でも好きだって言ってくれたでしょ?だからもう、自分を抑えるのはやめる」

そう言う小雪の表情は、以前より苦しくなさそうに見えた。

そのことに少なからずほっとしていた私に、小雪は「雪乃さ」と続ける。

「癖のある抱かれ方するんだよね。多分、紺野芳孝に相当仕込まれてる」
「……………え!?紺野芳孝って楓のお父さんの!?雪乃の義理の父親の!?総司令官の!?」
「そうそう、その紺野芳孝」
「え!?紺野司令官、雪乃に手ぇ出してんの!?実の娘とほぼ同年齢、しかも義理の娘である雪乃に!?」
「そうだよ。クズでしょ。まぁ、実の妹に手ぇ出した俺が言えた話じゃないけど」
「小雪はクズじゃないよ!」
「ありがとう。大好き哀」
「う、うん私も……って違う!」

真っ直ぐ目を見て言われたもんだから照れてしまったが、今はそこじゃない。

「マジか……直接会ったことないけど司令官までいくんだから40は越えてるよね?若い男にはできない責め方するんだろうなー…40過ぎとはシたことないからちょっと興味あるかも……」
「 あ い ? 」
「はっはいいい!」

小雪が物凄く怖い笑顔でこちらを見てきたのでマジでちびりそうになった。

「ほんとにやめてね?哀まであの性根腐ったクソ嗜虐趣味野郎の餌食になったら、俺あいつに何するか分かんないよ?」

小雪がここまで言うなんて、めちゃくちゃ嫌いなんだな、紺野司令官のこと……。

そりゃ好きな子に手を出す義父のことは好きになれないよね。

……でも、ここまで言うってことはもしかしたらそれ以上に何かあるのかも。性格が最悪とか?小雪を脅してくるとか?

私なりに紺野司令官の人柄を想像していたところで、小雪はふと食べる手を止めて、真剣な表情で私を見た。

「ねぇ、哀。今度俺が義母に会いに行く時、一緒に来てくれないかな」
「北海道?」
「うん。隣にいてほしい」
「……そんなことでいいの?」
「哀が隣にいたら、少しは気が楽だと思う。あの手の病は今でもそう簡単に治るもんじゃないから、義母さんが治ることは一生無いだろうけど。けど俺、それでも会いに行きたいんだ。元の義母さんに2度と会えなくても」

小雪が“壊れた”と表現した小雪のお義母さん。

どういう状態なのかはよく分からないけど、こんな風に小雪が私に頼み事をしてくれたのは初めてなのだから、断るわけがない。

「行くよ。小雪が望むなら世界の果てでも」

それで、出会った頃あんなに苦しそうにしていた小雪の笑顔が増えるなら……なんて思っていると、小雪が笑い出した。

「っふふ、あはは」

何か変なこと言っただろうかと自分の発言を振り返ろうとしたが、その前に小雪が言う。

「哀は男前だなって思って」

だろ?と言いたいところだが、私が女であることを知ってる小雪に言われると複雑な気持ちだ。女に対して男前って、褒め言葉なのかどうかよく分かんない。