澤雪乃の育ての父親である紺野芳孝が雪乃にある種の仕込みを始めたのは、雪乃が10歳の時だ。

最初は義父という立場の芳孝が直接雪乃に触れたわけではなかった。

芳孝は雪乃の10歳の誕生日に夜の作法を教える男を連れてきて、彼に雪乃を抱かせた。

その男は2年ほど雪乃の相手をしていたが、2年経った頃には来なくなった。

印象に残らない風貌の男だったと成長した雪乃は思う。2年間ほぼ毎日顔を合わせていたにも関わらず、雪乃は彼の顔を思い出せない。


小学校を卒業し、制服を身に纏うようになった頃、今度は芳孝自身が雪乃の寝室に入ってくるようになった。

芳孝は雪乃に幼い体では受け止めきれない快楽を与えた。

幼いながらも、その頃の雪乃はそれが人に言ってはいけないことなのだと分かっていた。

誰から教えられたわけでもないのに、何とは無く、話してはいけないと感じていた。


雪乃が芳孝と体の関係を持つようになったのは13歳。“13歳以下かつ当人より5歳以上年下の児童に対し連続的に性衝動を抱くこと”という大まかな定義に従うならば芳孝は小児性愛者、いやそれだけでなくチャイルド・マレスターとも言えるのだが、芳孝は一般的な小児性愛者とは違い適当な異性がいないというわけでもなかった。

それなりに女性とは付き合いがあったようだし、雪乃以外とも性行為に至ることは多々あった。

軍人をしている芳孝は、雪乃の元にたまに帰ってきたかと思えばいつも疲れた様子でいる。

終戦後、芳孝は死刑になった以前の司令官と替わり、日本帝国軍の総司令となった。

芳孝が選ばれたのは、彼が軍才のみならず人の弱みを握る才能―――人を動かす才能を持っていたためだろう。

「雪乃、おいで。シャワーを浴びよう」

一緒に風呂へ入る時、芳孝は決まって雪乃の下の毛を剃り、雪乃の歯を磨き、体や髪を洗う。雪乃はされるがままになっていなければいけない。

風呂から上がれば芳孝は雪乃の髪を乾かし、膝の上に乗せて軍であったことを話す。

軍上層部の汚い人間関係を楽しげにぺらぺら話されるため、雪乃はその時間が苦手だった。

父親の真似事が終わり、体も冷めてきた頃、それは始める。

義父は女性の身体を悦ばせるのが相当上手い、と、そう多くの男性を相手にしたことのない雪乃でも、はっきり感じる。

弱い部分を見つけ出すのも、どこが好きかを把握するのも早い。毎日違う責め方をされている気がしてくる。一度上に乗られれば、芳孝は雪乃の支配者となる。

普段から支配者であるのに変わりは無いのだが、雪乃が最も芳孝に逆らえなくなるのはこの時だった。

「好きな人でもできたかい」

驚いたように芳孝を見上げる雪乃に、芳孝は腰の動きを止めて「いつもと具合が違う」とよく分からないことを言った。

「雪乃も年頃だからね。いても不思議ではないか」

問い掛けておきながら1人で納得した様子の芳孝は、再び動き始める。

“好きな人”と聞いて真っ先に雪乃の頭に浮かんだのは、ついこの間自分を拒絶した男だった。

芳孝はそれを知ってか知らずか、その日はいつもより長く雪乃の中にいた。