前言撤回。


 この青年がアタシを助けてくれたはずがない。

 さっきの落胆した気持ちなんて取り消しだ。


 目の前の青年に恐怖を抱きながらも心の中で文句をたれるアタシはひどく滑稽だ。


 「……、」


 何も言えず黙り込むアタシの言葉を待ち続ける周囲の視線に耐えきれなくなっていた時だった。


 「ヒカリちゃんッ!」


 突然部屋の扉が勢い良く音を立てて開いた。


 自分の名前をいきなり呼ばれたことと騒ぞうしい声に次は何事だと驚きながら目を向けると、入ってきたのは大人の女性で、黒髪の鋭い瞳を持った人だった。切れ長の瞳は綺麗と同時に僅かに畏怖を抱かせる。


 その女性は入ってきたかと思うとアタシをいきなり抱きしめ……いや、飛び付いたと言ってもいいくらいの勢いだ。