「落ち着いたな」



 どれくらいの時間が流れたのか、あるいはそれほど経っていないのかはわからないが、男がそう言ってアタシから視線を逸らしたのはひどく長い時間だったように感じた。



 「安心しろ。お前が怖がることは此処にはねえよ」


 どこか穏やかな声がそう言うと男はアタシから手を離した。


 ホッと一息をつくのと同時に、何故かその男の言葉が安心出来るものだと思ってしまった。


 彼等がアタシを殺さない保証なんて何処にもないのに。


 掴まれた手の温度が失われていくのを感じながらアタシの視線は獣耳の青年を映していた。


 不意に彼はアタシから目を逸らすと、


 「ユウ、来たのか」


 その言葉に意識を向けると、扉の開く音がして誰かが部屋に入ってきたことを告げた。