対する父の声もひどく冷たい声音で……聞いたことのない冷たさに妙に胸が騒いだ。ドクンドクン、と脈打つ心臓はこれから起こる出来事を予想して鼓動している。
「先に逃げろ」
こちらも見ずにそう呟いた父。
どんな顔でそんなことを言っているのだろう。
「……な、ん」
「わかったわ」
一瞬で頭が働かなくなったアタシの声を遮った母は力強く頷いた。
驚くアタシを他所に母の決断は早いもので、その時でさえ母もアタシを見ていない。働かない頭でも此処でみんな助かる確率は低いのだと言われているように感じた。だからと言って父を一人残すなんてできる筈がない。
「いやだッ!!」
咄嗟に母の腕から抜け出して先程からアタシを見てくれない父の腕に精一杯しがみついた。
この手を離してはいけない。