「そんな顔をしなくていい 。父は俺に完璧を求めていた。俺はそれに応えられなかっただけなんだ」
そんなアタシ達の視線に気付いた父はいつものように笑うと黙り込んでしまった。
二人はアタシのことを宝だと毎日のように言う。
生まれてきてくれてありがとう、と。
アタシの知っている親はそんな愛に溢れている。でも父の話を聞くと、二人の間に愛があるように思えない。祖父は父を愛していないのだろうか。
父の背中を見ながらそんなことを考えてひどく胸が締め付けられた。
こんなに優しくて温かい父を殺そうとする親なんて酷すぎる。ひどく胸が痛くなるのを感じながらアタシは無言でトボトボ歩いた。
今更なにも言えるわけもなく俯いて歩きながら風の音を感じた。
冷たい風が肌に突き刺さるのを身に沁みた。
暫くそのまま歩き続けていると不意に風の音が止んだ。それどころか風の抵抗や音も何もなくなったように感じる。