いつもならアタシが外に行くと言えば、
 
 「行ってらっしゃい」

 と言ってくれるのに。



 それに今、あの強気な母が泣いてる。アタシは母が泣いた姿を今まで見たことがなかったように思う。


 なにか変だ。


 気づかれないようにベッドから降りて扉に近づく。


 大丈夫、二人はアタシが寝ていると思っている。


 そう確信しながらゆっくりと足音を立てずに扉に近づき、片耳を押し付けて二人の声に集中する。


 「まだ、諦めてなかったのね」

 「それはそうだろう。俺の親父だ。誰よりも執念深いことは充分わかってる」

 「………」

 「遅かれ早かれこうなる運命だった」

 「そうね…」

 「ヒカリ、来なさい」


 二人が何を話しているんだろうと、そのことばかり気を取られていて、突然父に名を呼ばれ大げさに身体がビクついた 。


 「…っ、!」

 「起きてるんだろう?」


 昼間と違い穏やかな父の声は今しがたの会話は何だったんだろうと思うほど優しかった。