「それぇ!」

 ユーリ様は私の手をぐいっと引っ張り、私を湖に落とした。

「ひゃああ! つ、冷たいー!」

「あははは! 君もずぶ濡れだぁ!」

 彼は怒るどころかこの状況を楽しんでいるみたいだった。

「殿下。怒らないのですか? あなたを湖に落としてしまったのですよ?」

「風のせいさ。君のせいじゃない。こんなこと始めてだからつい楽しくなってしまった。怒る話じゃないよ」

「殿下……」

 私たちは湖から出て、何かあった時のために準備していたタオルで体を拭いた。

「それでシャーロット。賭けは私の勝ちだ。私の誕生日パーティーに参加してくれるよね?」

 たしかに賭けはユーリ王子の勝ちだ。
 でも、やはり行けない。
 恥をかくためにパーティーに行くなんて、私の心がもつわけがない。

 それに……。

「殿下、やはり私は行けません」

「シャーロット」

「怖いのです! パーティーで恥をかいて、今度こそあなたに軽蔑されるのではないかと。殿下がお優しい人なのはよくわかりました。だから、そんな殿下に呆れられると思うとますます怖くて……」

「シャーロット。約束する。私は決して君を軽蔑したりしない。だから自信をもってパーティーで歌を披露してほしい」

 王子はそう言うと、私の濡れた頭を優しく撫でた。

「私を信じて」

 彼の優しい声に心が落ち着く。
 
 彼を信じよう。
 
 私はコクリと頷いた。