少しばかり緊張しながらも、私は殿下のために歌を歌った。時折、曲に合わせて鳥が舞い、森の動物たちが聞きにやってくる。風が伴奏がわりにひゅうひゅうと吹いた。

 自然との調和を感じながら歌う。
 こんなに気持ちいいことがあるのだろうか。

 そして私が歌い終わった後、殿下はしばらく余韻に浸っていた。

「美しい声だ。本当に君の声は素晴らしい」

「ありがとうございます。そんなことおっしゃっていただけるなんて光栄ですわ」

「今のところ、呆れるような要素が見つからない。皆大袈裟に言ってるのかな」

 いや、それは大袈裟ではなくてただ王子の反射能力と身体能力が高いだけでは。
 私は心の中でツッコミを入れた。

「それどころかもっと君のことが知りたくなったよ」

「知れば知るほど、後悔しますわ。殿下」

「そんなこと言わないでよシャーロット。君は君のままでいいんだ」

「ユーリ様……」

 私は私のままでいい?
 本当にユーリ王子はそう思っておられるの?
 あなたの言葉を信じてもいいのかしら。

 私たちは昼食を終え、屋敷に帰る準備をする。

「私が風呂敷をしまいますから」

 私は立ち上がって、風呂敷を畳もうとした時だった。一陣の突風が吹き、風呂敷が凧のように舞い上がる。

「風呂敷が!」

 私は風呂敷が飛ばされないように端を持っていたが風のほうが強くて、体ごと湖の方へ飛ばされていく。

「シャーロット!」

 湖に落ちると思っていた矢先、ユーリ王子が私を庇った。

 あぁ、私はまたやってしまったのか。

「ユーリ王子……! 大丈夫ですか!?」

 湖が浅くて助かったが、王子はずぶ濡れになっている。私は慌てて手を伸ばした。

「殿下! 私に掴まってください!」

 王子は黙って私の手をとる。
 
 あぁ、怒ってらっしゃる。
 呆れて何も言えないんだわ。
 私は下唇を噛んで泣くのをこらえた。

「君も濡れてみるかい?」

「へ?」