私は彼の身体能力を侮っていた。
私が何度こけそうになっても彼はその直前で支え、彼の靴の踵を踏みそうになっても、反射的に避けてくれる。
私の被っていた帽子が飛んでいってもすぐさま駆けつけてとってくれた。
私のどんくさいところを、王子はカバーしてくれていた。
「殿下は毎日鍛えておられるのですか? 素晴らしい身体能力です」
「王子は時に命を狙われるときがあるからね。何かあると体が反射的に動いてしまうのさ」
湖の畔まで到着して、私たちは昼食をとることにした。風呂敷を広げて、カゴを置く。私は殿下にお茶を注いだ。
「殿下。お茶をっとっとぉぉ!!」
「危ない! シャーロット」
風呂敷に滑ってしまい、ティーカップごと殿下の服にかかってしまった。
「も、申し訳ありません殿下……!」
あぁまたやってしまった。
きっと呆れているに決まっている。
「拭けばいいだけだよ。それよりも君が怪我しなくて良かった」
「殿下……」
なんてお優しい人なのだろうか。
流石は王子というべきか。
私はハンカチを王子に渡す。
「ありがとう。ねぇ、シャーロット。1曲歌ってはくれないだろうか」
「私の歌で良ければもちろんです。どのような歌をお聞きになりたいのですか?」
「そうだな。この湖畔に合う歌がいいな」
私は座りなおしてから、声の調子を整える。
「では、1曲だけ」