体は石のようにカチコチになって、足の出し方を忘れてしまいそうだ。
 堂々と歩いて、皆の前で歌わなきゃ。

 あぁ、ダメだ。
 足が上手く上がらない……

 私はドレスの裾を踏んだ。

 それから後はわかるだろう。

 大勢の観客の前で、ものすごい音をたてて転けたのだ。

 周りから笑い声が響く。

「流石はどんくさ令嬢ですわ」「ほんとどんくさい」「なんてはしたないんでしょう。見ているこっちが恥ずかしいわ」

 あぁ、またダメだ……!
 ダメダメダメ。
 もう自分が嫌いになる!

「お手をどうぞ。シャーロット」

 ユーリ王子が私を起こしてくれた。

「怪我はないかい?」
「だ、大丈夫です」

 慰められると逆に涙があふれてくる。
 ますます惨めな気持ちだ。

「殿下。私には無理です」
「忘れたかい? 私を信じて。君の美しい歌を、君の良さを皆に知ってもらおう」
「殿下……」

 逃げてばかりはいられない。
 彼がこんなにも頑張ってくれている。
 私もそれに応えなければ。

「この歌を、誕生日である殿下に送ります……」

 どうか歌うときだけは失敗しませんように。
 私の殿下に対する感謝の気持ちが伝わりますように。
 神様……。

 私は両足を少し開いて、姿勢を正す。
 自然と緊張が解けていき、私は口を広げて歌を披露した。

 話し声が次第に小さくなり、広間は私の声だけが響き渡る。
 楽しい。とても楽しい。
 人前で歌うことがこんなにも楽しいことだなんて知らなかった。

 広間の窓から夕暮れの光が差し込む。
 それはスポットライトのように私を明るく照らしていた。

 歌い終わった。