「す、すいません…
余計な事をしてしまって…
きっとプロの方が生けたお花ですよね…」

私はしゅんとする。

「いや、こっちの方が良い。
初花、アンタ華道の心得があるのか?」

風早さんは尋ねた。

「い、いえ!
心得という程の物では…
ただ、祖母が生け花が好きで…

あ、私は祖母に育てられたんです!
小さな頃に両親を亡くして…
でも、今はその祖母も居ないので、天涯孤独というやつですね!」

私は明るくそう言った。

「そうか、俺と一緒だな…」

風早さんは少し影のある表情でそう言った。

「え…?」

「いや!
とにかく気に入った!
初花(ういか)、お前にはしばらく俺の家の家政婦をやってもらう。
抱くか抱かないかは、その後で決める。」

「えぇぇぇぇぇ!?」 

処女を渡せば終わりだと思っていただけに、これは意外な展開だった。

しかし、言う通りにするしか…
実際に100万円もの大金を払ってもらった訳だから…

ん?
でも、70万円はあるし…

「あのぅ、私花屋の店員でして…
仕事はどうすれば…」

「あぁ?
お前自分の立場分かってんのか?
100万円の分は働いてもらう。
仕事はとりあえず休暇をもらえるように俺が掛け合ってやるよ。」

風早さんは言う。

「え、でも…
花屋でそんな長い休暇取れるかどうか…」

「俺の個展で使う花を買い占めるとでも言えば問題無いだろう。」


この人一体…?
個展…?

かざ…はや…!

ま…さ…か!?

「あぁ、察しの通り、俺は華道家風早流の家元だ。」

風早さんは何でも無いことのようにそう言った。
風早流といえば、日本の華道の三大流派の一つだ。

まさか、その家元!?

私は目を白黒させた。

じゃ、もしかして…!

さっき手直しした桜の生け花は…!?
私は桜の生け花に目をやる。

「あぁ、俺が生けた花だ。
まさか、素人に指摘されるとはな。」

風早さんはおかしそうに笑った。

「ご、ご、ごめんなさい!
知らなかったとはいえ…!」

大変な失礼をしたと気づいた私はそう言った。

「いや、初花、お前の感覚は俺にとっては新鮮だ。
だから、しばらく家に置く。
まぁ、処女ももらってもいいけどな?」

ニヤリと笑って言う風早さんに、私は今更ながら顔を赤くした。