「もえー」
スーパーの帰り道にくもくんに会った。遊園地の次はここのお祭りへのお誘いだった。次は誰も来ないらしいのでさっさとオッケーした。けど信じられないことにそれは今日らしい。なんでもっと前に言ってくれなかったのと聞くと。少し語尾を濁らせながら、だって勇気が出なくて。ってw
え?遊園地普通に誘ったでしょ、。
よくわからないがまあそういうことらしい。
「よー、雲。
え?彼女?ねー抜け駆けは良くないぞー。1人ならお祭り一緒に行こーと思ったのに、、。」
友達らしい。
私は別に良いので友達関係を優先して欲しかった。くもくんはいつも私を優先してくれたから。
でも、優先して特別扱いしてくれるところが、私は大好きだ。
「いいよ。くもくん。行って来て、友達と。」
「でも、」
「いいの。」
くもくんは私の押しに弱いことを知っていた。それを利用してしまった。ごめんなさい。
結局お祭りは1人で行くことにした。

わー!わたあめだ。あ、焼きそばもあるじゃん。
私は1人の割にはすごく楽しいお祭りを過ごした。
ヒュー、ドッカーン
花火だ。この街の花火は昔見たものより大きくて綺麗だった。
美しさに見惚れていた。
きれい。
するとつんつんと背中を叩かれた。
思わず振り返った。
「もえ、覚えてる?俺創也」
え、なんでここにいるの。
よりにもよってこんな日に。
「覚えてるけど。なに」
冷たい、素っ気ない声で言った。
「俺、まだもえのこと忘れられへんねん。今日一緒にこの後回らん?屋台」
は?別れたんですけど。もう好きじゃないって言ったよね。なんで、来るの。あー、あっちはまだ好きだからか。でも許せない。あっちは知らないだろうけど、こっちは傷ついてるんだからね。
「ごめん。無理」
そーやがあまりに関西弁だから私もうつりながら話した。
もし、昔のことがくもくんにバレたら。私はきっと可哀想な子になる。
だから私は一度もくもくんに家族のことや昔のことを話したことはなかった。なので、関西弁では話さないことにしていた。だんだんこっちに馴染んできて、関西弁が出そうになることはほとんどなくなったけど、やっぱりそーやと話すとでてしまう。
「お願いやって。俺、ほんと忘れられへんねんやんか。少しでもええから未練はらさしてくれへんか。」
人通りが増えて来たので前より大きい声で言って来た。私も周りの声に負けないように言った。
「いやだって言ったじゃんか。
なんでわかってくれへんの。私はもう好きちゃうから。話しかけんとって。」
手をふりはらって言った。
でも、そーやは頑固だった。
昔から変わらず、1度やると決めたら動かない、そんな人だった。
次は手首を掴んで、
「好きやねん。お前は嫌いかもしれん。けど、一方的に終わらせるのはちゃうやろ。」
今にも発狂しそうな声。
感情が昂っているのがわかる。
でも、私もかなり昂っていた。
付き合っている時からこれだけは嫌だった。
「何回言ったらわかるねん。
お前って言うなって言ったやろ!
普通大事やねんやったらお前とか言わんわ!
あとなしつこい男は嫌やねん。」
そーやは付き合ってるときから時々私をお前と呼ぶ。それだけは嫌だった。私には名前がある。お母さんとお父さん、お姉ちゃんが考えてくれた、大事な名前が。
私の怒りは頂点に達していたんだと思う。周りからひとがさっていくのがわかった。
でもそーやも感情が極限まで高まっていた。
「なんでなん。何があかんの。
俺もな謎に頑固なところだけはずっと嫌いやった!
でも、良いところが多くてだから好きだし付き合ってたんや!」
「そんなんそーやも頑固やん。
かってに私だけ悪いみたいにせんとってや。最低、、。」
言い合いは止まらなかった。
気づかないうちにすごく関西弁で話してる。誰かに聞かれたらどうしよう。でも、そーやへの怒りは治ることを知らなかった。
「もうそーやとやり直すつもりも一緒にまわるつもりもない。帰って」
「でももえ、遊園地きたやん。
なんでなん。遊園地は良くてお祭りはあかんの?何がちゃうん!」
まだ手首を掴んだままだ。
そーやが叫ぶたびに力が込められてすごく痛かった。
私は手をもう一度手を振り払って、
「遊園地は知らんかったからや。
知ってたら行かんかった。
そっちだってなに。気づかないふりなんてして、気持ち悪いねんけど。」
そーやはとうとう我慢できなくなったのか手を振りかざした。
あ、殴られる。最悪な展開だな。
元カレに殴られるとか、、。
パシッ。
誰かがそーやの手を止めた。
そして肩には微かな温もり。
「もえに何してくれんの。創也。」
静かででも暖かくて、優しい声。
「くもくん、、?」
「そうだよ。」
くもくんだったのだ。
でも、なんで、ここに?
「なんでここにとか思ってる?
そら、あんなに大きい声で喧嘩してたら誰でも気づくよ。」
あ、そうだった。
そら、あんなに大きい声だしたら気づくか。
「創也、もえとはどう言うつながりなの。」
「、、。」
走って逃げていった。
「待てよ、」
お構いなしにもう闇の中に消えていった。
そーやが私に話しかけてくることはもう無いと思う。
「もえ、聞きたいことが、話したいことがあるんだ。」
何、何を聞かれるの。
何を話してくれるの。怖いけど、くもくんならなんだか怖くない。
私は誘導されるがまま公園のベンチに座った。
「聞いて、もえ、あのね、、
俺はもえのおかげで変わってんで。」