sideシェリエ

着いた屋敷はそれなりの綺麗さだった。
だが、もちろんライザリア侯爵家の城と比べれば倉庫のような物だ。
この小さな屋敷では、おそらく晩餐会も夜会も舞踏会も開けないだろう。

そう、もう私は貴族では無いのだ。(騎士階級は貴族では無く、準貴族と呼ばれる独特の階級である)
シェリエ=ライザリアではなく、今日からシェリエ=セクティスなのだから。

ロロドロア様は、優雅な仕草で私の腰を持ち上げ、馬車からふわりと降ろした。

「持ち上げて頂かなくても降りられますわ…」

つい刺々しく言ってしまう。

「それは失礼。
水たまりが足元にあったものだから、つい。
今度から泥だらけでも無視するから、安心してくれ。」

ロロドロア様は嫌味で返した。

「そ、そ、それは…知らなかったものだから…
あの、その、ありが…とう…」

私は顔を赤らめて言う。

「…どう致しまして。」

私はロロド様に続いて屋敷に入った。

「使用人の数は何人ほどですの?
お部屋の数と、料理人は…
家の事は私が滞りなく管理しますわ。」

「それはありがたい。
では、早速夕飯を作っていただいても?」

ロロド様は言う。

「それ、何かの冗談ですの…?
料理は貴族のする事では…」

「ふん…
やはり、元貴族のお嬢様に料理は無理か。

使用人は居ない。
料理人も居ない。
部屋は8つ。

管理することなど何もない。

強いて言うなら、料理、洗濯、掃除をしてくれれば助かるがな。」

私は開いた口が塞がらなかった。

「あなた一応騎士階級でしょう!?
私に下女の仕事をしろというの!?」

「ぎゃあぎゃあわめかないでくれ。
出来ないなら、俺がする。
でも、騎士の妻はそう言うものだ。
俺たちは、いや、あんたはもう貴族じゃないんだ。
それだけ言っておく。

部屋は2階の4部屋から好きなところを選べ。
どいてくれ、料理の邪魔だ。」

ロロド様はエプロンをつけてキッチンに入ってしまわれた。

うそ…でしょう…?

私は貧血のように軽く眩暈がした。