sideロロドロア

彼女は一言も喋らなかった…
その琥珀のように美しい瞳も、今は氷のように閉ざされていた。

俺は沈黙を破る事にした。

「聞くんだ…
魔力を持つ俺たちには、魔沸点という物が存在する。
目には見えない。
けれど、あるんだ。

魔沸点とは、魔力の限界値だと思ってくれれば良い。
それを過ぎて魔力を使うと、魔力はとてつもない勢いで暴走し始める。
そう、止まらないんだ…

シェリエ、君は今日魔沸点の少し前まで来ていた。

分かるか?
俺の言っている意味が?

サラナを殺しても、君が化け物になるだけだ。」

「………構わないと言ったら?
化け物になっても、サラナを殺してしまえるならば。」

「そんなに馬鹿だとは思わなかった…
がっかりだな。」

俺の本心だった。
彼女がどんな屈辱に遭ったかは、想像するに難しい。
だが、化け物になっても良いだとは…

馬鹿げている。
あんな女のために。

「あなたに…
私の悔しさは分からないわ…」

「わかりたくもないね。
いつまでも貴族の栄光に囚われているといい。
俺はそんな女には興味のかけらも無い。」

俺はあえて冷たく言い放った。

出来るなら、彼女の心を溶かしてあげたかった…
彼女の不安を全て取り払い、抱きしめたかった…

だが、彼女は過去に囚われている…

それは俺にはどうする事も出来なかった。

いや、それは嘘だ。

俺がその気になればライザリア家など滅ぼすことも出来るだろう。

彼女の為にそこまでする気に、今はなれない…