「まず、お財布が盗まれたという事ですが…」

「えぇ、その通りです。
付け加える所は何もありません。
財布が寝ている間に盗られた、それだけです。はい。」

ローズリート様は言う。

「事件は昼の1時頃と伺っていますが…
相違ありませんか?」

私はさらに尋ねた。

「いえ、眠りについたのが、昼の1時頃。
起きたのが約1時間後の昼の2時ですから、その間に盗られたのだと思いますよ?」

「なるほど…
犯人に心当たりはございますか?」

「さぁ、僕を恨む女性ならば、星の数ほど居ると思いますが、それならば刺されているはずですからねぇ。
財布を盗るという事は金目当てでしょうから…
そうなると、みんなに動機がある気がしますが…」

ローズリート様はおっしゃる。

まぁ的を得た意見にも思える。

「シャルナーク様、その1時から2時の間に庭に出た姫君や女官などを特定できますか?」

「今のところ分かっているのは3人だな。
女官のプレシア、姫のサルバ、侍女のターニャ。
それ以外にも居ったかもしれんが、目撃情報があるのは、この3人だ。

あぁ、それから、財布の発見者ミーナもおるな。」

シャルナーク様はおっしゃる。

「財布の発見者?
では、財布は見つかったのですね?」

「あぁ、金を盗られた状態で、だがな。
ミーナの話では、庭の隅に落ちていたらしい。」

「では…まずは、女官のプレシアから事情を聞きましょうか?」

そして、女官をホールに呼び出した。

「わ、わ、私はやっていませんわよぉ!」

女官のプレシアは来るなり、そう言った。

「落ち着いてください。
犯人と決めつけている訳ではありません。
ローズリート様に近づく怪しい者など、見ていませんか?」

「そんな私はただ私付きの姫様の髪飾りを探していただけで…」

「髪飾り?
落とされたのですか?」

「え、えぇ。
無事に見つかりましたけれど…
下ばかり向いていましたから、誰が居たかなんて…」

プレシアは言う。

「分かりました。
ありがとうございました。」

次は姫君のサルバ様が来られた。

「あのね、私は栄誉あるシャントス侯爵家からこの後宮に入りましたのよ?
そんな金貨10枚の為に盗みを働くとでも?」

サルバ様はおっしゃる。

まぁ、それもそうかもしれないが…

「全員に聞いて居ることですので…
庭で怪しい人などは見かけませんでしたか?」

「いいえ?
気がつきませんでしたけど。
大体あの女好きのローズリートなんていい気味だわ。」

「女好きだからと言ってお金を盗っていい訳ではございませんよ。」

私はやんわりとそう言ってサルバ様にお礼を言った。