後宮に戻ると、後宮はいつにも増して慌ただしそうだった。
まぁ、それもそうだろう。
皇帝陛下の25歳のご生誕祭では、姫君達は誰が皇帝陛下のエスコートを受けるか?と、そればかりを考えて着飾っているのだから。
部屋に戻ると、マリアやレイ、アール達も例外では無かった。

「まぁ!
エティーナ様!
ずっと外出されてらっしゃるから、ドレスの試着にも間に合わないかと思いましたのよ!」

「ドレスの試着?
いつものドレスじゃダメなの?」

「まぁ!
エティーナ様っ!
皇帝陛下のご生誕祭ですのよ!?
他の姫君方に引けをとらない豪華なドレスでないと!」

「うーーん…」

あまり乗り気はしないけれど、後宮内のドレス店に向かった。

「エティーナ様は黄金の瞳でしょう?
ですから、エメラルドグリーンのドレスなんて、映えると思いますのよ!」

「うーーん…
そうねぇ。」

そろそろ、陛下に道の整備の件について進言しなくては…
そんなことを考えながら、着せ替え人形に徹した。

やっとドレス選びも終わり、私は疲れ果てて後宮の部屋に戻った。

♦︎♦︎♦︎

そして、その3日後皇帝陛下の生誕祭が行われた。
本城で行われるので、みんなお姫様方もエドバ城に馬車で向かう。

ご生誕祭舞踏会はそれはそれは華やかで、薔薇のアーチで彩られ、魔法の電球が浮かび、みな美しく振る舞っていた。
私も退屈ながらも、皇帝陛下への礼儀を欠くわけにはいかない。
後宮で姫として暮らしていくからには、こう言った催し物には出なくてはならないのだ。

「おぉ、軍師姫ではございませんか?」

そう私に声をかけたのは、イグナード様だった。

「イグナード様…
ご機嫌麗しく…」

私は一応レディのように挨拶した。

「はっはっはっ!
軍師姫らしくありませんな!
今日は美しく、普通の姫君に見える。
あ、いい意味で、ですよ?」

イグナード様は笑ってそう言った。
確かに私らしくは無いだろう。

「いささか窮屈ですわ。」

本音を言う。

「そうでしょうね。

どうですか?
あちらでバトルボードゲームでもしませんか?」

イグナード様がおっしゃった。
バトルボードゲームとは、要するに将棋やチェスのようなもので、弓隊や重装歩兵隊などを操り戦うボードゲームである。

私は目を輝かせた。

「ぜひ、一戦お願いしますわ!」

私たちは王族や貴族達が見守る中バトルボードゲームの席に着いた。

ふーむ、イグナード様の性格は存じないが、攻勢が強そうだ。
ならば私は防御を固めるか。

イグナード様は重装歩兵部隊を繰り出してくる。
私は重装歩兵部隊の盾隊を駆使して防戦一方、に見せかけて相手の背後に回り込み補給部隊を壊滅した。

イグナード様の陣は補給部隊を絶たれ、右往左往…

ついに、防戦一方と思われた私の陣が持久戦の末勝ったのだ。

「参りましてございます!
軍師姫、お見事!」

イグナード様がおっしゃる。

「いいえ、お手合わせいただきありがとうございます。」

私も頭を下げて言う。

その時…

「やれやれ、こんなところで遊んでいたか。
我が姫は。」

皇帝陛下がそれは美しいことこの上無い正装で現れた。
シルバーの正装には金のボタンや装飾が施され、マントの裏はベルベットの黒。
金髪の髪は少しかき上げ気味で、それはそれは、かっこよかった。

これは、姫君達が騒ぐ訳だ…

「エティーナ姫、私と一曲踊っていただけませんか?」

皇帝陛下に手を差し出され、私はその手を…
振り払うわけにもいかないだろう。

「喜んで。」

というわけで皇帝陛下のファーストダンスの相手は私。

「何よ!トパーズの後宮のくせして!」
「軍師姫だとか言われて調子に乗ってるのよ!」
「ダイヤモンドの姫が優先のはずなのに!」
「あの、ブス!」

やっかみ、妬み、僻みの声が聞こえてくる。

「だいぶ妬まれているようだな?」

皇帝陛下はおかしそうにいう。

「なれば、私をファーストダンスに誘うべきでは無かったかと…」

私は言う。

「イグナードにうつつを抜かした罰だ。
せいぜい僻まれよ。」

「うつつなど抜かしておりませんわ。
バトルボードゲームをしただけですわ。」

「それでも腹が立つ。」

「はぁ…
子供のようにございますね…」

「はっはっはっ!
不敬罪だぞ。」

そうして、舞踏会の間中、皇帝陛下は私から離れようとはしなかった。
私は後宮の姫君をほぼ全て敵に回したのだった。