そうして、豪華なエドバ城の馬車が迎えにきた。
うーん、これではお忍びというより、王族の視察のようだ…
しかし、贅沢も言っていられないので、その馬車に乗り込んだ。
馬車はゆっくりと広い坂道を下りていき、巨大な門を潜り城砦都市に入った。

城砦都市には、刀鍛冶店や装飾店、ドレス店などが立ち並び、貴族や上級市民達で盛況だった。
しかし、そんなところはどうでも良いのだ。
私が目指すのは、別のところである。

「おい、エティーナ、どこへ行く?
そっちには農村地帯しか無いのだぞ?
ほら、そなたに似合う髪飾りでも…」

「そのような物は不要にございます。
私の目的は農村地帯を見る事にございますゆえ。」

「はぁ…
農村地帯を…?
そなたの変わりようにはついて行けぬな…」

「いいから、こちらへ。
ふーむ、土壌はまぁ良いようにございますね。

陛下?」

「なんだ?」

「戦国の兵糧の10項目を知っておりますか?」

「戦国の兵糧…の10項目…?
なんだ?
とりあえずじゃがいもなどがあれば良いのだろう?」

「甘い…!
甘うございますわ!

戦国の兵糧の10項目はこうです。

柿、栗、タイモ、松、梅、わらび、イチョウ、ふき、みかん、桃

これが、戦国の兵糧10項目でございますわ。
特に、柿、タイモ、わらび、みかんはあって損はございません。

早急に農村地帯の改革を進めるべきにございます!」

「ふーむ。
まぁ、確かに、どれも使い勝手はあるが…

そなたのその知識はどこから…?」

「とにかく…!
早急にそれらを植えてくださいまし!」

「わ、分かった。
そう致そう。

そ、そ、それで、茶でも飲んで行かぬか?
そこに、マドレーヌと茶のセットがあるぞ。」

「まぁ…!
甘い物は大好きですわ!
ぜひ!」

「そうか、そなたにも普通の姫らしいところがあるのだな…」

「あら、私は普通の姫ですわよ?ふふふ。」

そして、私たちは茶屋に入った。

「どうだ?
外に出て楽しかったか?」

「えぇ、とても!
また、連れてきてくださりますか?」

「そ、そ、それは…で、で、デートの誘いなのか…?」

「は?
いいえ。
ただ外に出たいだけだございます。」

私は馬鹿正直に答えた。

「ふ、ふん!
外出許可証は少し考えさせてもらう!
そなたは普通の姫ゆえな!」

何故か皇帝陛下は怒ってそうおっしゃった。

「そうでございますか…」

しょぼんとする私。

「そ、そう、悲しい顔をするなっ!」

「はぁ…
そうおっしゃられても…」

「そうだ、外出許可証を発行する為に、俺に礼をする、と言うのはどうだ?」

「礼?
でも、お金も持っていませんわ。」

「口付けで良い。」

「え…!?!?!?

それは、その…」

口付け?
いやでも初夜と言うくらいだから、口付けくらいは…
ぐるぐると考えを巡らせる。

「もう良い。
いやいやされても興が冷めるわ。」

皇帝陛下はぷいと横を向いてそう言った。

終始気まずい雰囲気のまま、初めての外出は終わったのだった。