次の日、朝から2度シャワーを浴びて、ネグリジェはコレが良い、アレがいい、髪型はこうするべきだ、化粧はこうか?などと、マリア、レイ、アールは気合いが入って居た。
そんなものにはかけらも興味のない私は大人しく着せ替え人形になっていた。

そして、やっとネグリジェが決まったかと思うと、着替えさせられ、髪はゆるく編んでサイドに…
完璧な後宮の姫が出来上がったのである。

初夜となれば気が重いが、まぁ、横になって適当に喘いでいれば終わるわ。
そう思って居た。

夜…
マリア、レイ、アールは下がり、部屋には私だけ。
私はベッドで本を読んでいたが、いつの間にかそのまま眠ってしまっていた。

「ん…?」

ふと目を覚ますと、ベッドの隣のテーブル席にはそれはそれは美しい金髪の男性が腰掛けていた。

「こ、こ、皇帝陛下…?」

「あぁ、やっと起きたか…」

「申し訳ございません…!
ついうとうとと…!」

「かまわぬ。
戦の準備で遅れたのだ。
眠くもなろう。」

そう言いながらも、皇帝陛下は目をテーブルの上から外されない。

私がそちらに行くと…
戦の陣図が広げられていた。

【陣図】
    エーラ林
           ●●●●●⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎●●●●● ベルベット軍5千

      ◯
     ◯◯◯
    ◯◯◯◯◯◯エドババーバ軍2万
    エーラ丘

私はそれを一目見てこう言った。

「敵は横陣にございますね。
対して我が軍は魚鱗の陣。」

「ほぉ…!
この陣図が読み取れるというのか?」

「多少の戦の知識はございます。」

「なるほど、それは面白い姫君だ。
して、そなたこの戦いをどう見る?」

「我が軍エドババーバ軍は、数の利、そして同時に、地の利を得ています。
一見すると、普通に戦えば勝利するような陣形でございます。」

私は慎重にそう言った。

「ふむ。
続けよ。」

「では…
一見と申し上げたのは、敵の陣形に不審な点があるからにございます。」

「どのような点だ…?」

「一見、敵の陣はただの薄っぺらい横陣に見えますが、中央だけがやや薄くなっております。
これは…
果たして、罠では無いでしょうか…?」

「罠?」

「そうでございます。
おそらくですが、敵の兵は5千にとどまらないでしょう。
敵兵の背後には大きなエーラ林があります。
兵力を隠すにはもってこいの林でございます。

おそらく、敵陣の中央が薄いのは我が軍を中央突破に誘い込んで、林の中に誘い込む為の罠。

そして、ここが1番肝心な点ですが…」

「なんだ?
申してみよ。」

「陛下、あなた様はそれに全て気がついてらっしゃいますね?」

「はっはっはっはっはっはっはっ!!!!!

よもや、そこまで見抜かれようとは!
そなた一体何者じゃ!?
とてもただの男爵家のご令嬢とは思えんわ。

その通りだ。
そなたの考えは俺の考えと全く同じよ。

して、そなたに聞きたい。
対処法はいかん?」

「それまた既に皇帝陛下にはお考えがあると存じます。
が…

私の考えを申し上げるならば、こうです。

まず、我々は中央突破に誘い込まれる()()をします。
前衛だけを切り離し、少しずつ少しずつ林の中に入る動きを見せるのでございます。
その間、後衛は静かに林を取り囲み、火矢の準備をします。
皇帝陛下の合図と共に、林に火矢を打ち込めば…
隠れていた敵兵を倒すことができますでしょう。

いかがですか?
皇帝陛下の納得のいく答えとなったのでしょうか?」

皇帝陛下は何も言わずに瑠璃色の瞳で私の目をじっと見た。

そして、静かに拍手した。

「見事よ…
まさしくただの姫というよりは、軍師姫とでも呼んだ方が良さそうだ。
一つだけ聞きたい。
そなたの知識はどこからくるのだ?」

「それは…
言えません…」

「ほぉ?
皇帝の俺に隠し事か?」

「申し訳ございませんが、今は言えません。」

「まぁ、良い。
エティーナ姫、誠に楽き夜であった。
また、あなたに会うのを楽しみにしよう。
そして、今回の戦の勝利はあなたに捧げる。」

そうおっしゃり、皇帝陛下は私の手にキスを落として帰られた。