次の日、皇帝陛下のお忍び用の馬車で、ルードラの街に向かった。
ルードラ侯爵家に滞在させてもらう予定である。

ルードラ侯爵はえらく恐縮して、皇帝陛下と私を迎えた。

1番良い部屋を与えられたのは良いものの、皇帝陛下と同室であった。

「エティーナ。」

「な、な、何でございますか!?」

私は十歩ほど後退しながらそう尋ねた。

「何もとって食おうとは思っておらぬ。
俺の勘によれば、今宵面白い事が起きるぞ。
ルードラの街に繰り出そう。」

「はぁ…
しかし、ルードラ侯爵が心配なさるのでは?」

「あほぅ、内緒でに決まっておろう?」

というわけで皆が寝静まった頃、ルードラの街に下りていった。

「シャルナーク軍が来たぞー!」
「逃げろ!」
「あっちの鉱山に行ったぞ!」

いよいよ、シャルナーク軍が攻めてきた!

ん?

だけど、あっちに鉱山などあったか?

鉱山はルードラの南東部にあるのである。
あっちと言えば北西部だ。

「な、面白いだろう?」

「皇帝陛下、一体何をなさったのでございますか?
あっちに鉱山など無いではないですか。」

「そ・れ・が、あるやもしれぬぞ?
()の鉱山がな。」

ニヤリという皇帝陛下に私は作戦のほぼ全容がわかった気がした。

「なるほど!
偽の金山の情報を流し、その金山には兵を潜伏させておく訳ですね!?」

「惜しい…!
が、少し違うな。
兵など1人も居らぬよ。」

「はぁ!?
それでは、偽の鉱山だと気がつけば…!」

私は言うが、皇帝陛下は余裕そうだ。

そして、しばらくして、また噂話が回ってきた。

「シャルナーク兵が撤退したぞ!」
「ほとんどのシャルナーク兵は生き埋めになったらしい!」
「やったぞ!
俺たちの勝利だ!」

生き埋め?
一体何がどうなっているのだ?

「ふん…
狐につままれたような顔をしておるな。
どうだ、これぞ、俺の兵を使わずに敵軍を退ける方法よ!」

「一体どう言うカラクリにございますか?
説明してくださいませ。」

「簡単な事よ。
あの偽の金山はな、壊れやすく作ってあったのだ。
そして、ルードラの市民達はシャルナーク軍が偽の金山に入ったところで、全員で偽金山の上に乗って飛びたり跳ねたり…
すると、どうだ?
金山は崩れて、大半は生き埋めになったはずだ。
これが、市民を使った俺の策だ。」

「皇帝陛下、お見事でございます!
参りましたわ…」

「ふん。
言ったであろう?
百戦錬磨の将だ、と。」

「はいはい、わかりましたわ。
あ、パンケーキセットがあるそうですよ?
食べていきましょう!」

そうして、シャルナーク軍の鉱山攻撃は不発に終わり、偽の金山の情報を流したことで、誰も鉱山を気安く攻める事ができなくなったのだ。
まさに、見事な作戦である。

百戦錬磨の将…か…