私はまさかと思い、裸足のまま急いで部屋を出る。侍女にもたれながらエドガーの部屋を開けると、彼はベッドに横たわっていた。

「エドガー?」

 私はエドガーに近づいて手を握る。

 彼の手はとても冷たく、そして固くなっていた。
 唇は白く、顔も真っ青だ。
 私は世界がぐるっと回ったように眩暈を起こし、床から崩れ落ちる。

「奥様! 今お医者がこちらに向かってますので。お気を確かに……」
「そんなエドガー……あなた……!」

 いつも私を診てくれている先生がやってきて、彼を診る。
 エドガーは過労死だと診断された。

「栄養失調と寝不足が原因でしょう。仕事と奥様の看病の両立に体が限界にきていたかと……エドガー様自身も自分の体の異変に気づいていたはずでしょうに……こんなことになって、非常に残念です」
「エドガー……どうしてそこまで……!」

 先生が下がった後、私はアメルダにお願いする。

「誰も部屋に入れないで。しばらく二人にしてちょうだい」

 アメルダは泣きながら部屋を出た。
 私はゆっくりと夫の頬を撫で、キスをする。そして彼の胸にそっと耳を近づけた。
 鼓動しない心臓。あんなに力強く打っていた心臓の音が今は全く聞こえない。
 私は涙を流しながら、ずっと彼の胸に耳を当て続けた。

「さっきあなたが愛してるって言ってくれた時、私も愛してるって言ってあげればよかった。まさかこんな終わりになるんて……ごめんなさい。ごめんなさいエドガー」

 私のせいで死んでしまった。
 私と結婚しなければ、出会わなければ、エドガーは長生きできた。
 そして、私なんかよりももっと素敵な人に出会って、幸せな日々を送れたはず。

「愛しています。この世界の誰よりもあなたを愛しています。エドガー。あなたは言った。来世も君と結ばれたいって。私は違うわ。来世があったら、あなたとは結ばれません。来世は私なんかよりもっと素敵な人に出会えますように。幸せになりますように。そう願っています」

 咳が激しくなり、口から血が滴る。
 瞼が重くなり私はゆっくりと目を閉じた。

 眠い。とても眠たい。
 またあの幸せな夢が見られるのかしら。

「愛してる。愛してるから次は私を見つけない……で」