帰っていく女子を見送りながら、思いっきり息をつく。

自分は女子ウケがいいらしい、と察したのは、10歳ごろだったか。しょっちゅう「かわいい子」と言われていたのが、だんだん「かっこいい」に切り替わって、やたらキラキラした視線を向けられるようになった。

中学、高校と進むにつれ、まわりはどんどん騒がしくなっていった。今では、「モテすぎて不気味」なんて言われている。

そんな慶人の卒業式が、3月1日――明日にせまっていた。今日は、全校生徒で式の予行をすることになっている。きのうまで自由登校だった3年生が、ふつうに学校に来るのは、これが最後だった。

このシチュエーションが、慶人のファンたちに、最後の勇気をふりしぼらせるらしい。数日前から、SNSに「予行の日に会ってほしい」というメッセージが届きはじめた。久しぶりに登校してみると、ロッカーにも似たような手紙がいくつか入っていたし、校内ではひっきりなしに声をかけられた。

伝えられた場所へ行くと、女子が1人で、あるいは友人たちに付きそわれて、ボタンをくれとせがんでくる。この高校には、卒業式のあと、ブレザーの第1ボタンをやり取りする伝統がある。持ち主の心臓に、一番近いボタンだかららしい。

(……去年までは、卒業生の女子からボタンをもらうだけで済んでたけど、今年はそうはいかないか)

これから対応しないといけない人数を思って、慶人は髪をかきむしった。

どれだけ真剣に見つめられても、どれだけ言葉を重ねられても。

自分は、それを断ることになる。