「ん? いないよ? いないけど……」
「じゃあ、別の子にあげる約束をしているとか」
「いや、それも違うんだけど」
「……じゃあ、どうしてダメなんですか? ほかに理由があるんですか」

たたみかけられて、慶人は笑みをひきつらせた。この子、おとなしそうに見えて、結構しぶとい。

女子がまた口を開いたので、慶人は慌てるあまり、その両肩をガシッ! とつかんでいた。やっちゃった……と思ったけれど、このまま押し切ることにする。

目を丸くした相手を、慶人はのぞきこんだ。

「ほかの女子からも、ボタンがほしいって言われたんだけど、ごまかして断ったんだよね。君にしか言わないけど……ちょっと理由があってさ」

まったく説明になっていないと思うのだが、女子はじわじわと顔を赤くする。

ダメ押しに、ブレザーの第1ボタンをつまみながら、ふわっと笑いかけた。

「だから、このボタンは見逃してほしい。……できそう?」

女子は、こくこくと首をふった。