残るはアリアか……。

アリアは殺したくない。
いや、殺すつもりは無い。   

天使を殺すなど恐れ多い。

俺は静かにアリアの部屋を開けた。

マリアは涙を流しながらお祈りを続けている。

お祈りの内容が嫌にでも耳に入った。

「白い髪の方、異国の風のようなコハが死にませんように。あの方が殺し屋でもかまいません。私のためにあの方は人を殺しているのですから。あぁ、神様、どうか。どうかコハをお守りください」

俺は、マリア目掛けて刃を振り上げた。

なぜ俺は震えていたのだろう。
それは、怒りなのか哀しみなのか、それとも愛憎なのか。

いや、愛憎にするにはあまりにも浅はかな関係だ。


願いなんて無駄さ。


だってあんたが好きな男は、俺が殺してしまったのだから。

あの女は知っていた……俺達の存在を……。
 
俺のことなど見てもいない。
見ていたのはコハだけだった。

悪魔は天使を殺めた。

おかしいな。
涙が一粒一粒こぼれていく。

「何もかもが思い通りになりゃしない」

俺は悪魔なのか。
本当に。
俺がいなかったらあの二人は……あのときの親子は……そし意味も無く殺された人々は……。

なぜ俺は生かされているんだ。

 
「派手にやったなー」

 
後ろを振り向くと、死花火のヴァレンタインがにやにやしと笑いながらやってきた。

「お前すげーよ。まさか屋敷全員を殺すなんて。予想以上だ。あの女は生かしておくのかと思ったのにな」

「なぜ貴様が……笑うためだけにきたわけではあるまいな」

ヴァレンタインは嘲笑した。

「知らないとは言わせない。主を殺した暗躍の子供たちは始末しなければならん」

俺は彼に負けないくらいに嘲笑った。

「飼い主を殺した犬は始末されるってわけか」

「そういうことだ。悪く思わないでくれ」

ヴァレンタインは心無く言う。
俺はふと尋ねた。

「お前は何のために人を殺している?」