私は恐怖のあまり、持っていたフルートグラスを床に落とした。

 息ができないのか、彼女は両手で自分の首を絞め、陸に上がった魚のように口をパクパクと動かしていた。痛みもあるのか呻き声を上げて床をのたうち回っている。人がもがき苦しむ姿はこうも惨たらしくて恐ろしいものなのか。

 そうしてしばらく苦しみ続けた彼女、マーガレット・ジャン・フェードルスは息絶えた。

 広間にいた貴族たちはワッと騒ぎ始める。

「通して! 通してくれ!」

 皇太子アンジェロ様が真っ青な顔でマーガレットを抱き起こした。

「マーガレット! マーガレット!! なぜ、なぜこんなことに!」

 今日はアンジェロ様の誕生をお祝いする日。おめでたいこの日が一瞬で悲劇へと変わるなんて。
 周りがざわついている中、私の取り巻きのエーミルが私を指差して叫んだ。

「ロザリンド様よ! ロザリンド様がマーガレットの飲み物に毒を入れた!」

 さらにアラーナがそうよ!と言う。

「さっきロザリンド様がマーガレットの飲み物に何か入れていたのを見たわ。本当よ! 私見たの!」

 今度はリリシアがそれに続く。

「昨日ロザリンド様が、マーガレットを殺すと言ってたわ。まさか本当に毒を入れて殺すだなんて……」

 私は焦って反論した。

「毒じゃないわ! ちょっと気分悪くさせようとしただけよ! 決して毒じゃ……」

 マーガレットを抱きしめながら、アンジェロ様が怒りのままに叫ぶ。

「衛兵! ロザリンドを直ちに捕えよ! 真実がわかるまで牢獄に閉じ込めておくんだ!」

 衛兵たちが私の両腕を掴む。
 私は必死に抵抗した。

「違う! 毒じゃない! きっと誰かにはめられたのよ! 離して、私に触らないでちょうだい! 私を誰だと思っているの!? マリーティム公爵家の一人娘、ロザリンド・フォン・マリーティムよ!」



【なぜなら私は、悪女ですから】