「もうどうなってるの!?なんで、、、とにかく今から会いに行くから、待ってて。」突然「会いたい」って掛かって来た電話。もうお店以外で会うことはないと思ってた。失恋した、そう、自分の気持ちにケリをつけて、沢山泣いた。
 何度も何度も泣いて、幸せになろうと決意した後だった。新しい恋を探そうと、優斗のことを諦めた後だった。
 それなのに。。。私の心は嬉しいと思っている。優斗と再び繋がれたこと、電話越しに伝わる優斗の声にこの上ない幸せとワクワクを感じてしまっている。
 もう忘れようと思ったのに。私が結局言ってしまう言葉は、「いいよ」、そう、本心を隠すように吐く。
 心の中で舞い踊っているのが、悲しかった。だって、優斗と出逢ってから幸せなことなんて一度もない。こんなに悲しいのが恋なの?辛いのを恋とか愛とかって言うの?まるで、たった一人の海中から太陽の光に手を伸ばすように、一生届かない陽の光は私を孤独に、優斗だけにさせる。

 それは、1件のメールだった。私はその日頭が痛くて、アフターをしてるから待ってねって言う優斗を待てなかったの。
 どうしても今日が良かった。何かあった時、側に居て欲しいのは優斗なの!何もしなくていい。ただ、くっついて、側に居てくれたら、どんなに幸せなんだろう。だけど、現実はそう夢物語みたくならない。
「これからは行けない。会いたいんやけど、やっぱりホストしてる以上集客はしたくて明日後輩連れてキャッチするから明日の昼か明後日は空いてない?」ああ、やっぱり営業だったんだな。その時にやっと気付いた。ううん、わかってた。だけど、失いたくなかったんだ。次もあるってどこかで信じたかったんだ。
 だるい頭のまま、「体調悪くて無理そう、おやすみ」と返信する。終わった。また恋が終わった。
 結局私は、本命にはなれないんだ。結局みんな、私を捨てるんだ。
 狂いそうな頭のまま、ベッドに倒れ込むしかできない自分が嫌いだ。眠ったってどうにもならないのに。傍らに置いた携帯はもう二度と鳴らないのに。なのに、私は、ブロックさえしていない。じゃあなんで、最後の日、私をあんな強く抱き締めたの?なんで、何度も何度もキスをしたの。なんで、私を帰るまで離してくれなかったの?なんで、帰る時も苦しくなるぐらい抱き締めたの?なんで!
 溢れ出す涙に髪やシーツが濡れても、もう、優斗は来ない。こんなに泣いてるのに、優斗はいない。お店さえ知らない。もう二度と、会えない。その現実に耐えられなかった。苦しい。私やっと幸せになれると思ったのに。セフレでも何でもいい、ただ側に居てくれる人が欲しかった。でも、他の人はしつこかったり、粘着質だったりで、私が辛くなっちゃって、でも、優斗はただそこに居てくれたの。結婚しようとか、付き合おうとか、デリヘル辞めろとか言わずに、ただそこに居てくれた。私のこと否定も肯定もせずに嘘かもしれないけど、「好きだよ」って甘い言葉だけ囁いてくれてたの。好きだった。てか今も大好き。
 追うでもなく、嫌うでもなく、ただ優しく側に居てくれる優斗が、、性格が大好き。一番落ち着くの。他のホストとだって寝たよ?ナンバー入りしてる人も居た。俳優と寝たこともある。だけど、優斗が一番良かった。
 当たり前だけど、優斗から連絡は来なかった。昼も朝も夜も関係なく泣き続けた。辛かった。早くこの暗闇から抜け出したかった。だから、デートもしたよ。優斗よりかっこよくて、イケメンで私のタイプな人とも沢山会った。だけど、無理だった。どうしたって私の心からは優斗が消えなかった。
 なんでかはわかんない。あんな人どこにでもいるはずなのに、私の心がそれを拒絶した。まるで、呪いにでもかかってしまったかのように、誰かと夜を重ねる度に優斗の顔が浮かんで、死にたくなった。
 苦しいのに、抜け出せない。この闇を切り拓く人は、私の人生で意味のある人は、ただ1人だった。
 ねえ、私はなんだったの!貴方の人生のなんだったの!なんで、、、そこで思い知った。ああ、私はあの人のこと愛しているんだなって、顔とかタイプとかどうでもよく、ただ優斗のことが好きなんだなって。
 誰も好きになれないと思っていた。ましてや愛なんて、夢のまた夢、私には手の届かないものだと思っていた。でも、これが愛というのならば愛だろう。だってこんなにこんなにも私の中で優斗が溢れて止まらないんだもん。
「死にたい」愛なんてそう簡単に触れるんじゃなかった。元々私は、いつ死んでも良かった。この生が余生だなんて思っていたんだ。
 なら、最期に愛する人と死ぬのが一番の幸福なんじゃないか?
 もう会えないなら一緒に死にたい。優斗となら、刑務所でも、どんな地獄でも一緒に居たい。
 人生を使ってでも優斗を愛したい。それで死ぬなら本望だ。

「待ってて」と言う声を聴きながら、なんてことないみたいに尋ねる。
「あ、そう言えばさ、ご飯作っちゃったんだけど食べる?」
「え!?何作ったの!?」食い付いた。そりゃね、家に帰ってないって聞けばまともなモノ食べてないんだとは想像つくけれど、、、ごめんね。
「卵焼きとお味噌汁!あとね、ハンバーグも作ってる途中。」
「食べたい」そう素直に言う彼が可愛い。大好き。でもね、これから私はあなたを殺そうとしてる。早く食べて、一緒に死のう?
 ベランダに咲き乱れていたトリカブトを急いで収穫した。これさえ食べれば、私は幸せになれる。
 優斗が居る今日を永遠に保存できる。
 自殺は大罪に値するって聞いたことがある。だけど、私、今日がいいんだ。もう二度と会えないかもしれないのなら、この先も生きて行くと言うのなら、世界一幸せな死に方をしたい。
 私は、ずっと愛されたかったし、誰かを愛したかったよ。だけど、みんなはお金や世間体の方がいいって言うの。たとえお金目当てだったとしても、ただ側に居てくれる存在に、どれだけ救われたんだろう。
 だから、もう、幸せだよ。優斗が隣に居るなら私幸せだよ。

 唐突に玄関の扉が開き、大好きな人に抱き締められる。タバコとマリファナの甘い香りが漂うその人は、私の大好きな人。
 いつもはそのままベッドに行くけれど、今日は違う。一緒に美味しい食事をするの。
 最期の晩餐ーそう言うんだろうか?死ぬ前に食べる最高の食事。生きて彼と過ごす、最期の時間。

 優斗は始終、笑っていた。疑いもなく、私が作った料理を全部食べた。それが毒だとも、知らずに。
 だから私も安心したんだ。

 薄紫の花が咲き乱れる部屋の中、毒薬を飲んで、優斗の隣に行く。もう二度と目を開けることのないその人は、私の大好きな人。世界で一番大切な人。愛する人。
 だから、優斗と死ねる私は世界で一番幸せだね。だって大好きな人を感じられる。死ぬ時まで。
 微笑んだまま血を流す彼を抱きしめた。朦朧とする意識の中、ふと、机の上にあるノートが目に入った。
『庵とならいつだって死ねる』
 その瞬間、強く強く抱き締められる。ごめんね、気付いてたんだね。殺してごめんね。
 最期に感じたその人の体温はこの世で一番温かった。
『たとえ地獄の果てでも一緒だよ』