僕はふと目を閉じた。

瞼の向こうには、「君」がいる。

その君の笑顔も涙もそしていつもの癖も。

すべて僕の心に刻まれている。

だが、目を開けると、君はもうどこにもいない。

その現実が、ただただ僕を苦しめた。



君とは、高校生の頃に出会い何度も一緒に笑い、多くの思い出を重ねてきた。

そう、これからも一緒に年をとると共に、たくさんの笑顔を宝物にして二人で分かち合うつもりだった。

だから、何があろうが君を守るはずだった。

それでも、僕は君を守ることが出来なかった。

君の突然の病に倒れ、この世を去ってしまった。

あの日、僕の心の中は深い深い闇に染まった。



今日も雨が降っている。

雨はますます強くなり、僕はわざと傘を下した。

濡れた服が冷たく肌に張り付き、風で雨が頬を打つ。

君もこの冷たさを感じていたのなら、僕も同じ痛みを感じていたかった。

君が悲しみ、苦しさを抱いていた日々を思うと...

それを、僕は一緒に共有できなかったことが腹立たしかった。



僕は君とよく行った場所を歩きその時に座ったベンチに一人座り込む。

雨が降る中、僕はそのまま目を閉じた。雨音に混じり君の声が聞こえる気がした。



君がこの世からい去ってから、君を想う一瞬が僕とって何よりも大切な時間になった。



ふと、目を開けると小さな花が咲いているのに気が付いた。

その花と同じ名前の曲が、君は好きだった事を思い出す。



その花は雨に濡れながらも凛と咲いていた。

僕はその花にそっと触れた。君の好きだった曲が頭に浮かび、思わず口ずさむ。

君との思い出は、どれだけ時間が経とうと色褪せることなく、寧ろ強く心に刻まれていくようだった。



その日、初めて雨の中で君を感じることが出来た気がした。

冷たい雨が僕の深い心の闇を洗い流し、僕にまた生きる希望を与えてくれた。

君を失った現実は変わらないが、それでも君と愛したこの世界で、君との記憶と共に生きてくことが出来る気がした。



雨が止んだ後、空にはうっすらと虹がかかり、まるで君が微笑んでくれている気がした。

僕は、静かにその景色を眺め、僕の心は黒く染まった様に感じていたが、なんだか、今、僕に新しく明るい色が染まっていくように感じれた。



僕は、二人の思い出のアルバムを開いた。

そのアルバムのページをめくると、君が書き残したメッセージが目に映った。

「いつまでも、二人笑顔でいようね。来世でも一緒だよ」

その一言が、僕の胸を熱くした。

君と生きたかった今日も笑って過ごし、

僕もそっちにいった時、もし君が待っていてくれたなら、

今まで伝えたかったこと、伝えきれなかったこと、そしてどう笑って過ごしたかを

伝えるんだと、心に強くそう誓った。



僕は、あの「花」を曲を想い口ずさむ。

それは君の生きた証を、僕の中で輝かせ続けるためだった。

そして再び歩き出した。君と共に過ごした時間が背中を押してくれるようだった。

の記憶はただ悲しみを引きずるものではなく、新たな希望と生きる力を与えてくれるものなのだと。

そして、君の残した「花」は、これからの僕の人生を照らす光になるだろう。

「ありがとう」僕はそっと微笑んだ。

今、君に伝えたい「君との思い出と共に生きていくよ。」