文字どおりに、身を挺して窮地を救ってくれた彼に、彼女は何度も礼を言い、感謝を述べた。その気持ちが彼への好意に変わっていくのにさほどの時間はかからなかった。

 そして彼の勇気ある行動に対し、警察から表彰状が送られた。ナイフで刺された傷も、後遺症もなく治癒した。

 仕事の功績とともに彼の人間性を認めた会社はさらに彼への評価を引き上げた。彼は若くして管理職のポストに就任、それとほぼ時を同じくして彼女と結婚した。

 すべてベリタスの計画どおりだった。

 馬鹿な人間どもめ。
 無能で役立たずの男にすっかり騙されおって。

 やがて彼の妻がみごもった。そして愛らしい双子が生まれた。平和で幸せな家庭を持った彼だったが、その胸のうちには不安が渦巻いていた。

 俺は…愛する妻も愛しい子どもたちも、今の幸せもすべて、嘘をついて勝ち取ったのだ。
 本当の俺は良い人間なんかじゃない。
 もしも俺の嘘がバレたら、すべてを失ってしまう。

 沈んだ気分になった彼の前にベリタスが現れた。

「悩むでない。今後も嘘を貫き通せばよいのだ」
「でも神さま。俺は…」
「おまえがクズなのは私がよく知っている。だから…」
 
 悪魔から言われたとおりに、彼は優しい夫として良い父親としての仮面を被り、日々を過ごした。