そんな彼が密かに思いを寄せる女性がいた。社内の別の部署にいる小柄な女で、おとなしい地味な印象だったが、笑うと可愛い。しかし女性にモテた経験が無い彼は、彼女と仲良くなりたいと思っても近づく方法を知らない。

「そんなことは簡単だ。男らしいおまえを見せてやれば、その女は簡単に落ちる」

 男から助言を請われたベリタスがほくそ笑んだ。

 彼女を落とす方法はこうだ。仕事から帰宅する途中の彼女へ、ベリタスが用意したゴロつきどもをけしかける。そこへ、偶然に居合わせた風を装い、彼がゴロつきたちの盾になって彼女を助けるのだ。

「なるほど!」

 さすが神さま。名案だと彼は感心した。

 ベリタスが仕組んだ筋書きどおりに事は進み、髪を金色に染めて派手なシャツを着た男どもが、ひと気の無い場所に彼女を連れて行き、乱暴しようとしたまさにその時、彼女を助け出さんとする彼が割って入った。

「なんだおまえ。やんのかこら」
「彼女を離せ!」

 本当は臆病者なのに、怯えながらも彼は震える声で懸命に虚勢を張った。

 虚勢だけで喧嘩も弱い彼は、チンピラたちから何発も殴られ、挙句の果てにナイフで腹を刺された。薄れていく意識のなかで、急速に近づいてくるパトカーのサイレンの音を聞いた。

 意識が戻った彼は病院のベッドの上にいた。重傷を負った彼のそばには心配そうな表情の彼女が付き添っていた。警官の姿もあった。彼らから聞いた話では、チンピラたちが彼に気を取られている隙に彼女が一一〇番通報をしてパトカーを呼んだらしい。サイレンを聞いたチンピラたちは逃げた。