やがて彼のその仕事ぶりが上司に認められ、会社にとって重要な案件を任されることになった。

 俺は…そんな優秀な人間じゃない。
 困ったぞ。

 戸惑った彼はベリタスに呼びかけた。

「重要なプロジェクトのリーダーを任されてしまったんです。俺にはそんなビジネススキルなんて無いのに。どうしたらよいのでしょう、神さま」

 男に呼ばれて出現した悪魔は鷹揚に答えた。

「何を言っておる。これはチャンスなのだ。おまえを信じている愚か者どもを騙すためには知識を身につけねばならぬ」
「知識…ですか?」
「そうだ。ビジネス書を読め。さらにそのプロジェクトの遂行に必要だと思われる技術の習得に努めよ」
「ですが神さま。俺は勉強とか嫌いなんです」
「ならば…」

 思案顔になった悪魔はこう言った。

「おまえの先輩たちから知識を盗め。しおらしい顔を装って彼らに近づき、仕事を教えてもらえ」
「なるほど。それなら楽できますね」

 さすが神さまだと感心しつつ、彼はベリタスから言われたとおりに、会社の先輩たちへ教えを乞うた。

 彼のことを、使えないヤツ、ダメ社員だと低評価を下していた先輩たちは、殊勝な態度で接してきた彼に驚いたが、仕事を教えてくださいと頭を下げられたら悪い気はしないものだ。

 彼に騙された先輩連中は、愚かにも、懇切丁寧に、彼ら自身のビジネスの知識を惜しげなく彼に与えた。そんな日々を過ごすうちに、彼は、先輩たちから勧められたビジネス書などを読むようになり、偽りの「勤勉なビジネスマン」という顔を保ちながら、任されたプロジェクトを無事に遂行した。その成果が認められた男は、ポストも給与も上がった。