あるところに怠惰で嘘つきの男がいた。その男に興味を持った悪魔のベリタスは、さらなる罪を犯させ、もっと堕落させてやろうと目論んだ。

(神であると偽って、この愚かな男を騙してやる)

 古い賃貸アパートの散らかっている部屋。その狭い部屋の真ん中に寝転がってスマホをいじっていた男の前に、突如として白く輝く神々しい姿のベリタスが現れた。

「私の言うとおりにせよ。さすればおまえが欲している富も名声も異性のパートナーも手に入るであろう」

 度肝を抜かれている男へ向かって悪魔はさらに呼びかける。

「まずはきちんと髭を剃って体を清め、清潔な服を着なさい。会社へ行って仕事をするのだ」
「で、でも神さま。俺は…働きたくないんです」

 怯えながらも反論する男へ、邪悪な悪魔が優しげな神の微笑みを見せる。無論それは偽りの仮面だ。

「おまえが怠惰で無能なのはわかっている。だからな。仕事をしているフリをすればよいのだ」
「はっ?」
「ただし完璧なフリだぞ。本当は怠けているのだとバレないようにな」

 ベリタスを神であると勘違いしている男は、なるほどと思った。

 仕事をやっているフリなら…まあいいか。
 嘘でも金をもらえるしな。

 悪魔から命じられたとおりに身支度を整えた男は、仮病を使って休んでいた会社へ出勤した。すると、ダラダラと仕事をしている男の横にベリタスが現れた。

「その仕事ぶりではだめだ。もっとな、優秀なビジネスマンのフリをしろ」
「ええと。こんなところに現れて大丈夫なんですか?」

 オロオロと周囲を見回している男へ、

「私の姿はおまえにしか見えない。おまえは私に選ばれたのだ」

 ベリタスがニヤっと笑う。

 うなずいた彼は、真面目な社員のフリをしつつ、仕事をこなしていく。

 本当は働きたくなんかなかったが、これは未来への布石なのだ、周囲のやつらに偽りの俺を信じさせるためなんだと自分に言い聞かせて、真面目な顔を装い、淡々と仕事に取り組んだ。