「―いらっしゃいませ」





開店時刻を迎えたことで、店内は落ち着いた賑やかさで埋まった。





休日の今日は、朝から客の入りもよく、早々にピークを迎えそうな勢いだ。





ここの店舗は一口にカフェといっても、コーヒーなどのドリンクや軽食がメインなので客の回転は早い。





次々と空くテーブルを忙しく片しながら、注文を伺いに行くのは、カフェとはいえ中々にハードな仕事だ。






「あのぉ、すみません」





「―はい、お伺いいたします」






丁度片付けていたテーブルの備品チェックが済んだところで、斜め前のテーブルに座っていた老夫婦に声をかけられた。





トレーにのせた残りの食器を早急に厨房に運び、エプロンから注文票を取り出しつつテーブルへと向かう。 






「お待たせいたしました。ご注文お伺いします」






テーブルにつきボールペンをノックしたところで、おずおずと男性の方が問いかけてきた。






「…あぁ、えぇと……いつものお姉さんは、今日はいるかな?」





「…はい…?」






予想していなかった注文に思わず聞き返してしまうと、男性は眉を八の字にして申し訳なさそうな表情を浮かべていた。




 
お姉さん…いつもの……。





正直、どの店員のことなのか皆目見当もつかない。





どう対応すればいいか考えあぐねていると、テーブルを挟み向かいの席に座っていた女性がすみませんねと頭を下げた。






「お父さん、困らせちゃってるわ。この方、きっと新人さんよ。あまり見かけたことないもの」





「おぉ、そうか…すまんなぁ…」





「あ、いえ…こちらこそ申し訳ありません」






二人の話から、この店の常連なのだとは分かったが、ここから先どう対応すれば良いかまでは分からない。





取り敢えずこのままではいけないと思い、別のスタッフを呼ぼうとホールに視線を巡らせた、その時だった。






「―佐渡くん」






聞き覚えのある落ち着いた声が、後ろから聞こえてきた。






「私が応対するので、レジお願いします」






声の主が長尾さんだと振り向いてから気がつき、そしてこの夫婦が探していた店員が彼女であることにも同時に気がついた。






「あ、はい…」






探し人の正体が長尾さんだったことに驚き、思わず気の抜けた返事をしてしまう。





長尾さんはそんな俺を一切気にすることなく、老夫婦のテーブルへと向かう。





そして残された俺はというと、一連の出来事に疑問符を隠せなかったが、ひとまず指示された通りにレジ台へと歩を進めた。