———————————
——————
「おはようございます」
「…おはようございます」
何の変哲もない始業前の挨拶とももさんの対応。
さっさと支度を終えてホールに出ていく背中にかける言葉も見つからないため、会話なんてものも出来ない。
今日も今日とて変わらない関係性に、内心ため息をつくが、昨日の真島の友人(名前は忘れた)とのやり取りで気づいたことを思い出した。
『俺と付き合ってどうしたいの?』
自ら質問した割に、自身で考えたことは一度もなくて自分があほらしくなった。
あのとき、ストレートに想いを告げられたのに対して無心で打ち返したわけだが、今となっては特大ブーメランだったのが分かる。
確か、恋人じゃないとできないことがしたいって言ってた気がするけど…。
それが一体なんのことなのか。
記憶を辿ったところで恋人なんていた覚えがないし、そもそも作ろうとした事すらない事実に気づき、途方に暮れた。
「佐渡?なにボケっとしてんの?」
ワイシャツのボタンに手をかけたまま絶賛物思いにふける姿に、すでに支度を終えた制服姿の真島が不思議そうに問いかけてきた。
「…何もないけど」
真島の視線になんとなく居心地が悪くなり、せっかく留めたボタンを外してまたつけなおしたりしてみる。
「ふーん。もう朝礼の時間なのに支度してないの珍しくね?」
そう言われて壁の時計をみると、想像以上に長針が進んでいて驚く。
「うわ。もうこんな時間か」
「そー。俺先行ってるからなー」
慌てて残りのボタンを留めてエプロンを雑に身に着け、ホールに出る。
ももさんはというと、いつも通り平静に清掃を始めていた。
「…やっぱあほらしいな」
平穏じゃない心に言い聞かせるように独り言をして、ひとまず思考を止めて仕事に集中することにした。