「—…あの」





「…!」






ももさんの声で、手放していた意識が一気に現実に引き戻される。





随分と昔のことを、予想打にしないタイミングで思い出したことに心底驚きつつ、怪訝そうな顔をするももさんに謝罪を入れた。






「…すみません、ぼーっとしてしまってました」





「…そうですか。…では、もう帰りますね」






そう言うと、くるりと背を向け迷いなく歩を進め始めてしまった。 





勝手に話をつけて帰ろうとするももさんに一瞬呆気にとられたが、すかさず彼女を追いかけ手を取った。






「だめです…!まだ答え、聞いてないんで」





「…答えとは」






最早迷惑さも滲み出ているような視線と抑揚のない声でそう答えられ、取り敢えず手を離してから、問いかけた。






「どうしたら、好きになってくれますか」






改めて告白にも近い言葉を言っても、きっとももさんの胸に響くものなんてないとは思うが。






「…わかりません」






ため息とともに吐き出された答えが、気持ちの答えでもあるのだろう。





俺の考えが間違っていなかったことに少し落胆したが、彼女の答えに不満はない。






「わかりました。遅くまで引き止めてしまってすみませんでした」





「…いえ」






あっさり引き下がる俺に少し目を見開いたが、今度こそ背を向けて遠ざかっていくももさんの後ろ姿を見て、俺もその場を後にした。