アスファルトに滑らす靴底の音が、ある場所からかすかに変わる。
駅の近くになると、道路に舗装が施してありアスファルトに切り替わるからだ。
バイト先から駅へと続く道は粗めのアスファルトになっているが、そこから僅かに高くなっている部分は平らにならされた新しい道が敷かれている。
そんなわけで、足音が変わるのは駅が近づいてきた合図。
曲がり角はもうすぐそこだ。
ももさんとの駅までの時間も、あと少しで終わる。
「…お疲れ様です」
歩いている最中は何も言わないが、こうして去るときだけ挨拶を残していく。
どう会話を生み出せばいいのかわからずひたすら無言で歩き続けた結果が、足音の変化で駅が近いかわかるという無駄な発見に至った。
こうしてももさんと駅まで歩くのは、最初の日から数えてもう2桁くらいは突入していそうなのに、相変わらず平行線な関係と気持ち。
「…ももさん…」
「なんですか」
「…え」
どうやら俺は、自分でも気づかない間にももさんの名前を口にしたようだ。
そしてももさんも俺の声に気づいたらしく振り返ってそう問いかけてきた。
というか俺はどんだけでかい声の呟きをしてたんだ…。
アイデンティティを失いかけていることに、思わず複雑な気持ちを抱いてしまう。
「…あー。いや………」
何でもないと言おうとして、ふとその言葉を飲み込む。
もしもここで、いつもと違うことを言ったらももさんはどんな反応をするんだろう。
毎回毎回、何か新しいことが起きないかとか、あんなに嫌ってたイレギュラーを柄にもなく欲していた。
けれど何も変わることは無かったし、何も起きもしなかった。
…当たり前だ。何もしていないんだから。
明確な原因に対してどうしたらいいかは、薄々気付いていたけれど、見てみぬ振りを続けていた。
でも今日はそんなにあざとい事を考えなくとも、自然と答えを思い浮かべられた。
「―あの。ちょっと、近くに行ってもいいですか」
「………はい」