「———ももさん!」






街灯の下に佇むももさんを見つけホッと一息をつき、駆け足で向かう。





辺りはほの暗いが、街灯の下にいるのを差し引いても、彼女がいるところがなぜか明るく感じる俺は結構というか、相当やられてると自嘲気味に思う。





自分でも自分のことが解らない。





最初の夜からずっと、それは変わらない。






「…ももさん、待ちましたか?」






走ったことはまだしも、急いで支度してきたことはどことなく悟られたくなくて、喉に迫る呼吸を抑えながら話しかける。






「待ってはいないです」






表情一つ変えずに素っ気なく答えられるが、良くも悪くもこれが平常運転なので気にせず、ももさんの隣をキープした。






「じゃあ、行きますか」





「はい」






こうして並んで歩けることは素直に嬉しいが、駅までの道のりはいつも始終無言になってしまう。





気の利いた会話なんて俺には出来ないし、ももさんも用件以外は口を開かない。





そもそもお互い、他人への興味なんてなかったから、こういうときどんな会話をしていいかよりも、会話をすること自体選択しないのかもしれない。






「………」





「………」






靴底が地面を蹴る乾いた音が、閑静な住宅街に響く。





なんとはなしに視線を地面から空に移すと、紺色の中にポツポツと星が出て、月が白く輝いていた。





いつもはこんなこと、気にも留めなかったのに…。





無性に干渉に浸りたくなる夜を感じて、同じ空間にいれることが少し嬉しくなった。





あの角を曲がれば、駅もさよならも、すぐそこだ。






「…ここで大丈夫です」





「あ、はい。…お疲れ様です」





「お疲れ様です」






本当に必要最低限しかない会話に一抹の歯がゆさを感じるも、だからといってどう新展開させればいいのかは、何度も言うが俺の辞書には載ってない。





だから今日も、このまま後ろ髪を引かれることなく去っていく彼女の背中を、ただ見つめることしかできない。






「………」






そんな日々を、これからなんの考えもなしに、俺は続けていくのだろうか。





その先に何も無いことはなんとなくわかる。





それが、心の何処かで不服に感じているのも気づいている。






「…帰るか」






頭に思い浮かんだ絵空事にも似た解決策を消し去るように、帰り道を足早に進んでいった。