教科準備室には誰もいなかった。
 
 古くなった緑色の壁にグループ用の大きなテーブルが一つと、椅子と、片脇に数冊本が立てかけてあるだけの木の棚があった。



「はい」



 敬が言って、ドサリと図鑑をテーブルに置いた。



 敬が教室から出ようとしないので、私は立ったまま手持ち無沙汰に居た。


 閉まっている窓越しに光が差し込んでくる。


 敬は椅子を引いて座ると、テーブルの上でで腕を組んだ。




「この部屋は埃っぽいな。作りが荒くて、雰囲気が学校って感じ」

「そう?」

「うん。そうじゃない?。日差しが当たると、ノスタルジック」



 敬が聞いた。



「原さん、面白い事があった時、どうやって言う?」

「面白い事って?」



 敬が言った。



「僕はこう言う。」

 

 表情を変えないまま敬が言った。



「こういう部屋に、原さんと居るのが、僕には特別だな」


 
 教科準備室は静かだった。

 敬の言うように、窓から入り込む陽光が教材やロール紙に柔らかく当たって、写真に残したらきれいだろうと思えた。


 前にも言った事を、敬はまた言った。




「原さんが、クラス委員の書記やれば良かったのに」

「何で?」




 前に言ったそのままを聞いた。



「別に」



 敬が言った。
 テーブルを見て、すまし顔をしている。