階段を降りて昇降口まで歩いていくと、もうほとんど部活の人たちも帰ってしまって誰もいなかった。

 外履きを取ると、私のよりひとつ斜め上の靴入れに、敬が手を伸ばした。



「原さんが書記だったら良かったな。」


 靴を片手に下げて敬が言った。


「何で?」


 私が聞いた。


「別に」


 敬が言った。靴をつっかけながら、いつも通りの顔をしている。



 靴紐を結びながら外を見ると、透明なガラス扉の向こうの景色はなんとなく青ざめて、まるで空全体が地上に落ちてきているようだった。



 敬が言った。


「オレンジじゃない夕方は、特別な人と居る時間って気がするな。」