「あー、毎日毎日疲れるわ~。私が天才なのは分かるけど、お父様もお母様も私のこと大好きすぎ。少しは気楽に過ごさせてほしいもんだわ~」
 弥生は布団にゴロっと寝転がしながら、不平不満を零す。
「大体国からの祓いの仕事だかなんだか知らないけどうでもいいし。とりあえず滅せればいいんでしょ」
「弥生」
 桜は弥生の肩をぽんと叩く。
「あーごめんごめんお姉ちゃん。部屋に呼んだのはさ、最近身体痛いから揉んでもらおうと思ったんだよねー。修行と座学でもうへとへと。早く揉んで」
 弥生は桜を睨みつけると、自分の肩をぽんぽんと「叩け」、とでも言うように指示した。
 桜は言われた通りに弥生の肩を叩く。

(今の私にできることなんて、こんなことしかないんだ……)

 桜には弥生が横を向いたり、こっちに顔を向けた時にしか何を言っているのかは分からなかったけれど、ずっと文句ばかりを言っているのは分かった。
 弥生の部屋は、いつも空気が淀んでいる。
 弥生の使う悪い言葉達が、そのまま淀んだ空気を生み出していた。

「大体なんでお姉ちゃん力使えなくなっちゃたわけ?本当役立たずすぎるんだけど。お父様もお母様もお姉ちゃんにしか興味なかった癖に、今になって私に期待しちゃってさ。あーもう本当にだるい。適当にやってるだけでよかったのに、北白河家の陰陽道継がなきゃいけなくなっちゃったじゃん。そんなのどうでもいいからかっこいい旦那様と結婚したいっつーの!」

 弥生は昔から何一つ変わっていなかった。
 大人達の前ではいい子ぶるけれど、桜の前では決まって文句ばかり言っていた。

「お姉ちゃんといちいち比べられなくなったのは、まぁよかったけどぉ。お父様うるさいんだもん!桜なら桜なら、って何百回も聴いたわ」
 桜が弥生の肩を揉んでいる間も、弥生の不満は止まらない。
「はー、でも清々した!これから一生お姉ちゃんと比べられながら生きるのかって思ったら、超うんざりだったし。お姉ちゃん耳聴こえなくなってくれてありがとー。あとは私が楽に生活できるように私のお世話係よろしく~」

 その日から桜は、使用人同然の扱いを受けることとなった。