騒ぎを聞きつけやってきた道元によって、桜の身体は隅々まで調べられた。
 どの程度聴こえているのか、あの手この手を使って確認する。

 しかし桜の聴力は、ほとんど失われていた。

 もともとは普通に話せていたので、今までと同じように言葉を紡いでいるはずではあるのだが、聴力が失われたせいで、自分ではしっかりと発音できているかすら分からない。

 何かの流行り病か?はたまた、先日退治したあやかしに呪いを受けたのではないか?

 そんな話がされていると、弥生が筆談で教えてくれた。

 そこで桜は少し思い当たることがあった。
 つい先日、退けたあやかしのこと。
 強大な力を持つあやかしであったため、少々苦戦し桜は傷を負った。
 しかし傷と言ってもかすり傷程度で、それはすぐに治ったのだった。

(もしかしてあの傷から、何か呪いを受けていた…?)

 桜は道元へと必死にそのことを伝える。
 しっかりと言葉にしているはずなのに、道元や文江、弥生は眉を顰(ひそ)めた。
 もどかしく感じた桜は、筆を取り、紙に書いて説明した。

「やはり呪いか…」
 聴こえずとも道元の口がそう言葉を紡いだのが、桜には分かった。
「しかし、あやかしの呪いと言うには…少し…、ふかか…」
 考え込む道元の小さな口の動きでは、桜には何を言っているのかはっきりとは分からなかった。

 十五歳、陰陽師として一人前の儀を行うその日は、延期されることになった。
 北白河家の後継ぎとして、多大なる期待を寄せられていた桜の一大事だ。まずはこの事態をどうにかしなくてはならない。
 その日は、ゆっくり休むようにと、道元と文江は気遣ってくれた。
 ただ同じように儀式に参加するはずだった弥生は、睨みつけるように桜を見ていた。