(これが噂の、喫茶店…!)

 お茶やお菓子をお洒落に楽しむ店だとは知識としてあるが、実際に訪れるのは初めてだった。
 今まで陰陽師としての修行ばかりで、家族で買い物に街に来ることなどほとんどなかったのだ。

「好きなものを頼め」
 黒稜の唇がそう動いた。

「でも…」
「いいから」

 相変わらず表情一つ変えない黒稜の圧で、桜は慌ててお品書きに目を通した。

(珈琲、紅茶…この、ワッフルとは、どんなお菓子かしら…?)

 桜は首を傾げながらも、黒稜にワッフルの文字を指し示す。
 黒稜は店員を呼ぶと、注文を言いつける。

 桜がそわそわしてそれを待っていると、間もなくしてお菓子が運ばれてきた。
 黒稜の前には真っ黒な珈琲が、桜の前には透き通った夕焼け色をした紅茶が置かれた。
 そして格子状のパンのようなふんわりとした見た目に、真っ白な丸いバターのようなものが乗っているワッフルがやって来た。

(これが、ワッフル…?)

 桜は慣れないナイフとフォークに四苦八苦しながら、ワッフルを切り分け、バターのように溶けかけている白いものと一緒に口に運んだ。

「……………!!」

 桜はその美味しさに衝撃を受けた。

(お、美味しい……!ワッフルってこんな味なんだ。バターだと思っていたこれはなんだろう?バターではないわ。冷たくて甘くて美味しい!)

 桜が夢中でワッフルを頬張っていると、黒稜が笑ったような気がして、桜は顔を上げた。

「美味しいか?」
「はひ、美味しいです!」

 桜のその返答に、黒稜のいつもの無表情が少し柔らかくなった。

「それはよかった」
 珈琲を一口口に含んだ黒稜は、何かを思い出すかのように桜がワッフルを食べているところを見つめていた。