御影家。
 かつては陰陽師の最高峰を輩出していた、由緒正しき陰陽師の家系である。
 数多のあやかしを滅し、幾多の災いを退けたと言う、陰陽師の世界ではとても有名な家系であった。

 しかしここ数年、御影家は表舞台からその名を消していた。

 噂によると、現当主があやかしに魂を売り、あやかしを従え、あまつさえ自身もあやかしになってしまったのだという噂が流れていた。

 そんな御影家から、桜に求婚の申し出があったのだ。
 道元達は笑いが止まらなかった。

「いいじゃないか御影家!桜にぴったりじゃないか!」
「ぴったりって、お父様その言い方は酷すぎ!」
「そうよあなた、桜も立派なうちの娘。しっかりと準備をして見送らなきゃ」

 相手が人間かもあやかしかも分からない家に、桜を嫁がせようとする家族達。
 桜は目の前で繰り広げられる会話に、もはや何かを言う気力さえ失っていた。

「この歳になっても求婚がないだなんて、どうしたものかと思っていたが。いや本当に良かった。桜、」
 道元は桜をじっと見つめた。

「結婚おめでとう。ついでに噂が本当なら、御影のあやかしも滅してきてくれ」
 なんてな、と豪快に笑う道元に、弥生と文江も心底楽しそうに笑う。

「やだお父様!お姉様は陰陽師の力がないのよ?あやかしを滅するなんて無理よ!」
「そうだったそうだった」
 きゃはきゃはと口を大っぴらに開けて笑う家族達。

(お父様もお母様も弥生も、私が死んだって一向に構わないんだわ……)

 桜はそこでようやく気が付いた。
 使用人同然の扱いをされていても、いつかまた陰陽師の力も、聴力も戻れば、きっと私を見てくれる。以前の家族に戻れる。そう信じて今まで過ごしてきた。

 けれど違うのだ。この人達にとって桜はもう、北白河にはいらない人間なのだ。なかったことにして、捨ててしまいたいのだ。

 絶望し、冷えた心からは、涙の一つも流れることはなかった。

(これでいい、これでいいんだわ。私は、生きる価値すら、ないのだから…)