「じゃあまたねー。」
「うん。気を付けて帰れよ。」
俺たちは別れ道で別れてお互い背を向けながら家へと足を踏み出した。

ミーンミーンミーン

相変わらずセミの鳴き声がうるさく、むしゃくしゃした気持ちで俺は手に持っていた傘を振り回しながら歩いた。

ペシッ

傘が何かに当たった音がした。いらついていた俺は傘の方に視線を向けて
「おいなんだよ」
といいかけて言葉を失った。

そこには見たこともない美少女が立っていた。

「すみません。」
すぐに俺の口から言葉が出た。少女は不思議な雰囲気を纏っていて、ゆっくり瞼をあげると
「謝らなくて良いんだよ。」
と囁くように優しい声で答えた。

「君、腕怪我してるね。どうしたの？」
気づくと俺は少女に話しかけられていた。
「あ、あーこれはサッカーでできた骨折。」
「まあ骨折なんて対したことないけど。実際片手だけで普通に傘振り回せるし。」
その言葉を彼女は悲しそうに俺を見つめながら聞いていた。
「そっか。君どこの中学の子？」
「俺は南橋中の3年生。葛西蒼人。君は？」
「私は宮本なぎさ。高校1年生。」
ゆっくり落ち着く声で宮本さんは答えた。その目は俺ではなくどこか遠くを見ている気がした。
そこから俺と宮本さんはたくさんの会話を交わした。
しばらくしてから宮本さんが口を開いた。
「葛西くん、私ね友達がいないの。」
「だからね、葛西くんにたまたまぶつかって、久しぶりに外で人と話したんだよ。」
「すごく嬉しかった。本当に嬉しかった。」
淡々と喋る宮本さんはやっぱりどこか悲しそうだった。
「ねえ。葛西くん、もしよかったらまた明日もここで会わない？」
しばらくの沈黙が流れた後、宮本さんは軽く微笑んで言った。
「俺なんかで良いの？たまたまぶつかっただけの俺で。」
「うん。」
「じゃあ明日2時にここに来れる？」
俺は自然と口から言葉がでていた。
「うん。ありがとう。」
口角を軽く上げて宮本なぎさと名乗る彼女は微笑んだ。その美しさに俺は危うく惚れるところだった。