「お父様⋯⋯。今戻りました。ご心配おかけして申し訳ございません」

 その時、彼女は妙な違和感を感じていた。父である国王と何となく向き合うことが出来ず、目を合わさぬよう頭を下げ反省の意を表すことで湧き上がる不安を誤魔化す。

「心配したよ。怪我はなかったかい?」

 娘の左肩に手を置き変わりはないかと尋ねる王に、身体的には以上はないが記憶が一部抜け落ちていることを伝えた。

 城を抜け出した後から『闇の森』で目覚めるまでの間のことは何も覚えていないのは事実だ。そこに嘘はない。ただ、伝えていないことがあるだけ。

 あの森で出会った人たちのことは、まだ誰にも話してはならない────そんな気がしていた。

 それはただの直感だったのだが、不安や危機感、恐怖と直結する感情には素直に従うべきだという亡き母の教えに従ったまで。備えあれば憂いなし。後悔だけはしたくい、と。