「ありがとう。あなた方一族にはどんなに言葉を尽くしても、この感謝を伝えきることはできません」
「ありがたきお言葉にございます。国王は素晴らしいお方でした。どうかその血筋を絶やさぬよう。命ある限り人は前へ進めます。僅かな希望など何の糧にもならないとお思いでしょう。しかし望みは捨てないで⋯⋯」
「ええ、誓います。いつか来る『その日』を信じて、この血は絶やすことなく次の世代へ繋げて行くと」
そのしっかりとした答えに、ディートヘルムは満足したように頷いた。そして彼女を急かす、「早く」と。
コンスタンツェは御者台に上がると素早く手綱を握る。
見上げれば、東の空が微かに色づき始めていた。
「ディートヘルム、本当にありがとう。このご恩は生涯忘れません」
王妃の言葉に彼は今一度優しく微笑み返すと、静かに背を向ける。その姿を見届けて彼女は力強く手網をきると、勢いよく馬車を走らせた。
去り際に聞こえた甲高い音は、鞘から剣を引き抜く際の金属の擦れる音。それはどこかしら叫び声にも聞こえ、ディートヘルムの最期の覚悟を窺い知ることができた。
その背中を振り返りながら、彼女は堅く誓う。
彼がその全てをかけて守ってくれるこの命を、決して無駄にはしないと。必ず生き延びて、彼ら一族の真の姿を語り継いで行くことを。嘘偽りなく、深い慈愛に満ちた心で彼女と王子を守り救ってくれた彼の最期の勇姿を⋯⋯。
そしていつの日か『ヴェルナー』の魂が、クラウス────あなたの下へ辿り着きますように、と。
馬車は全速力で闇に咽ぶような夜の森を駆けて行く────。
「ありがたきお言葉にございます。国王は素晴らしいお方でした。どうかその血筋を絶やさぬよう。命ある限り人は前へ進めます。僅かな希望など何の糧にもならないとお思いでしょう。しかし望みは捨てないで⋯⋯」
「ええ、誓います。いつか来る『その日』を信じて、この血は絶やすことなく次の世代へ繋げて行くと」
そのしっかりとした答えに、ディートヘルムは満足したように頷いた。そして彼女を急かす、「早く」と。
コンスタンツェは御者台に上がると素早く手綱を握る。
見上げれば、東の空が微かに色づき始めていた。
「ディートヘルム、本当にありがとう。このご恩は生涯忘れません」
王妃の言葉に彼は今一度優しく微笑み返すと、静かに背を向ける。その姿を見届けて彼女は力強く手網をきると、勢いよく馬車を走らせた。
去り際に聞こえた甲高い音は、鞘から剣を引き抜く際の金属の擦れる音。それはどこかしら叫び声にも聞こえ、ディートヘルムの最期の覚悟を窺い知ることができた。
その背中を振り返りながら、彼女は堅く誓う。
彼がその全てをかけて守ってくれるこの命を、決して無駄にはしないと。必ず生き延びて、彼ら一族の真の姿を語り継いで行くことを。嘘偽りなく、深い慈愛に満ちた心で彼女と王子を守り救ってくれた彼の最期の勇姿を⋯⋯。
そしていつの日か『ヴェルナー』の魂が、クラウス────あなたの下へ辿り着きますように、と。
馬車は全速力で闇に咽ぶような夜の森を駆けて行く────。