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「イザベラ様! ご無事で何よりにございます!!」

 そう声を上げ走り抱きついて来たのは、乳母のエレナ・カーラー。

 雪深き『闇の森』で再会した美しきヴァンパイアは、イザベラの命を救いはしたが、その数日後急かすよう彼女を城から追い出した。

 太陽を西へ、真っ直ぐ歩けと。

「さすれば、この森からは抜け出せよう」、そうその背中をそっと押したのだ。

 雪原となった辺りを見渡し途方に暮れる彼女に、「どうかご無事で⋯⋯」と聞こえた優しい声。思わず振り返るが視界に入ったのは重厚な扉だけで、バタンと閉じられたその音が聞こえるのみだった。

 馬もなく、もちろん馬車もない。ともなれば、後は自身の足でこの身を運ぶしかない。言われた通り太陽を西に見上げ、森の中をただひたすら真っ直ぐに歩き続けた。そうしてやっと開けた場所に辿り着けた頃には、陽の光はほぼ真上から注がれていた。