ヴィンフリート王は人としても人望厚く、国王としても実に立派な人物であった。秘薬の特性を知り、決して人に知られてはいけないと、彼ら一族の秘密保持のために率先し尽力してくれたのも国王本人だったと。

 ゲオルクはそんな国王が疎ましく目障りだったのだ。しかも肩書きを失い権力から遠ざけられた今、それは殺意に変わったのだと。

「だから、殺された」、クラウスのその一言はとても重く響く。

「そしてその罪を我ら一族に擦り付け、国王の弔いだと称し正義の名の元⋯⋯一族皆を切り刻んだ⋯⋯⋯⋯」

「そんな⋯⋯」

 クラウスの淡々とした語り口調が、逆に事の悲惨さを強調しているようで、ヴィクトールは放心状態。

 歴史とは、いつの時代も血生臭い。

「でも、なぜ国王の血は途絶えなかったんだ? 国王が殺されたなら、その家族も無傷ではいられなかったんじゃないのか?」

「ヴィンフリート王は、ゲオルクの企みに薄々感づいていた。だから殺害される直前に、自身の妃と王子を我々に託したのだ。国外へ亡命させて欲しい、と」

「それで⋯⋯今、僕はここにいる」

 クラウスは静かに頷いた。

 今まで考えてもみなかったのだ。

 代々受け継がれてきた土地を守り、大地を耕し、家族と共に生きてきた。心優しく温かい両親、二人の兄と一人の妹。みんなで支え合いながら⋯⋯。

 そんな日々がいつまでも続くと、ヴィクトールはそう思っていたのだ。

 しかし天は、彼に試練を与える。