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「いつまでそうしているつもりだ?」

 振り返るヴィクトールの背後で、クラウスが怪訝な表情を浮かべている。

「彼女は?」と声だけで尋ねる彼に、ため息を吐く美男子は「俺に聞くな」と冷たく返した。

「気になるなら自分の目で見て来い」

 そう言われたが、ヴィクトールには出来なかった。

 恨んではいるのだ。

 イザベラは彼にとって憎むべき相手の血族。思いもしなかったその正体に、後先考えず刃を向けてしまうほど動揺していたのだ。とはいえ、彼女自身に罪はない。あの時の様子からして、本当に何も知らないのだと、今なら冷静に向き合える。

 なのに、あの場面では理性が働かなかったのだ。

 本能の赴くままに剣を突き立て、下手をすればせっかく救われたその命を奪うところだった。

 彼は、無くしたはずの復讐心と冷静に向き合っていた。

 そうして気づけば、あの日から三度の夜明けを数えていたのだ。